地球のへそ (オーストラリア) 2000年4月


 アリス・スプリングスはオーストラリア大陸中央部に位置する砂漠の中のオアシス。小規模だが、その中にショッピング・センターやレストラン、カフェなどが並んでいる。町はエアーズロックの玄関口でもあり、先住民族のアボリジニが多く暮らす街としても有名だ。

 長い間迫害や差別を受けてきたアボリジニだが、今では国から援助があるので働かなくても生活をしていけるという事を友人のオージーから聞いていた。その為かこのアリス・スプリングスでも、町をうろついたり、だらだらしているアボリジニをよく見かけた。

「地球のへそ」とも呼ばれるエアーズ・ロックは、アリス・スプリングスから約500km離れたところにある。2億3000万年もの昔に創造された、高さ約350m、周囲約10kmにも及ぶ世界最大級の一枚岩のエアーズロック。アボリジニには「ウルル」と呼ばれ、聖地として大切にされている。

 エアーズ・ロックへの観光客はすべてエアーズ・ロック・リゾートという所に滞在する。この中にピンからキリまでの宿があり、私は一番安いドミトリーに宿泊した。リゾート内には生バンドが演奏する大きなオープン・レストランもあった。
 ここで出会ったオージーの観光客一団の中に、片言の日本語を話せる学生がいた。どうやって勉強したのかと聞くと、学校の授業の選択科目にあるのだと言っていた。

 エアーズ・ロック周辺を巡るツアーは、グレイハウンドのチケットに含まれていたと思う。前の晩に雨が降り足元が滑るからという理由で、エアーズ・ロック登山の当日に、登れるかどうかで足止めをくった。

 しばらく待たされた後に登れることにはなったのだが、その待ち時間の為に本来訪れる予定だったマウント・オルガに行く時間がなり、乗客はエアーズ・ロックに登るかマウント・オルガに行くかを選択する羽目になった。
 私はエアーズ・ロック登山を選んだのでマウント・オルガには行けず、頂上から遠くに見えるその姿だけを眺めることになった。

 エアーズ・ロックの麓や周辺には、アボリジニの儀礼や生活などを物語る壁画や痕跡なども多くあった。農耕文化が届くことがなかったオーストラリアでアボリジニは数千年にわたり、狩猟や採取による生活を続けていたという。

 シドニーの近郊にあるブルー・マウンテンズのスリー・シスターズへ行った時、そこでディジュリドゥ(アボリジニの楽器)を吹くアボリジニがいた。友人のオージー曰く、そういう所に現れるのは本物のアボリジニではないとのこと。

 エアーズ・ロックからアリス・スプリングスに戻り、安宿のドミトリーを利用した。市内を散策して夜遅く宿に帰ると、私のベッドのマットレスだけが無くなっている。
 その晩は国内で有名なバンドのライヴが町で行われていて宿も混んでいた。部屋の他のベッドは空いておらず、受付も既に閉まっている。

 宿の隣はパブがあり入口が一緒だったので、おそらく経営が同じだろうとバーテンに話したが、俺には関係ないよと言わんばかりに、半分酔っ払って面倒臭そうにしている。頭にきてかなり文句を言うと、ようやく重い腰を上げて他の部屋を用意してきた。

 オーストラリア大陸半周の旅のハイライトでもあったエアーズ・ロック。地球の原風景のような広大な土地にいると、いかに人間がちっぽけな存在かということを思い知らされる。
 地球のへそと言われるエアーズ・ロックだから、その上に立つ人間はやはりゴマのような存在なのだろう。




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