島一周ドライビング・後編 2011年5月24日


 屋久島の南部には、干潮時の前後2時間しか入浴できない平内海中温泉がある。その近くにある湯泊温泉も海中温泉で、こちらは干潮とは関係なくいつでも入れる。
 どちらも入浴料は気持ち(100円位)で、目の前は海という絶好のロケーション。天気が良ければどちらかに浸かりたかったが、雨だったのでこの件は水に流した。

 温泉に入れなった悔しさを掻き消そうと、北上して大川の滝を訪れた。屋久島の滝のなかでも最大級という落差88mのこの滝は、滝壺の真下まで近づけるので迫力満点。見事に温泉の悔しさを忘れさせてくれた。

 大川の滝からの道は、道幅の狭い西部林道になる。ここは沿岸部では唯一世界遺産に指定されている地域。
 この林道のドライブは、まさしく森の中を走ってるようで気持ち良かった。雨という天気で唯一得したのは、緑が鮮やかだったことだ。

 林道の途中で屋久島灯台に寄り、いなか浜まで下った。ここは海亀が産卵する事で有名な浜で、その上陸数は日本一。
 夜に訪れれば産卵シーンを見れたのだが、涙を流しながら苦しむ姿を見たらもらい泣きしそうなので止めた。といってもあれは涙ではなく、塩分をふくんだ粘液。亀たちはうそ泣きをして同情を誘ってるのだ。

 手前にあるの永田浜も海亀で知られてるが、この集落は「トビウオ招き」という古くから伝わる民俗芸能でも有名。豊漁を願うこの踊りが現在も行われてるかは知らないが、個人的には亀の産卵よりもこっちの方が見たいと思う。

 そのまま北端まで進み、志戸子の白川茶園に立ち寄る。屋久島のお茶は稀な自然環境が作り出したもので、独特の甘味や後味の良さがあるという。
 一番安い茶を一つだけ買おうと店内に入ると、おじさんがいろいろ試飲させてくれた。おまけにおにぎりやサバの燻製をくれるというおもてなし。こうされると買わなきゃいけないという気分になるが、私はそういうのには一向に怯まない。

 1000円の安い茶を一つだけ買うと、なんとサービスで600円のほうじ茶をくれるではないか。こんな事をしていたら赤字になるんじゃないかと心配になったが、このサービス精神がリピーターを増やす元になるのだろう。

 恋泊で寄った陶芸工房の奥さんから、宮之浦の屋久島環境文化村センターで映画が見れると聞いていた。その中でごちょう踊りが見れるかもしれないと、そこへ行ってみた。
 映画は1日8回程度上映されており、ちょうど始まる寸前だった。500円の観覧料を払って中に入ると、目の前にあったのは20mx14mの縦長タイプの巨大なスクリーン。座席との距離も短いのでかなりの大画面に感じた。

 上映された25分の映画は「屋久島 森と水のシンフォニー」というタイトルで、内容は屋久島の自然や文化を紹介するもの。映画の中には山を空撮した映像があったのだが、これが大スクリーンで見ると迫力満点。
 これを見て感じたことは、屋久島トレッキングは縄文杉よりも宮之浦岳の方が醍醐味があるということ。こちらは森ではなく、巨大な岩が露出して太古の地球を感じさせる場所だ。

 映画には岳参りの様子もあり、白装束を着た2名が宮之浦岳山頂の巨石に立っているシーンがあった。そこは、どうやって登ったのだろうという巨石の上だった。この次に屋久島を訪れる時があったら、私もその場所に立ち「三岳」の神に拝みたいと思う。

 残念ながらごちょう踊りの映像はなかったが、それでも映画は見応えがあった。そういえば始まる前に女性アナウンスが「映画のナレーションは俳優の阿部寛さんです」と告げていた。なぜ阿部寛なのかと、なぜそれをいちいち説明したのかは謎だ。

 小降りだった雨は夕方になると大雨に。ラジオを聞けば台風が接近していた。レンタカーを返却してキャンプ場のテントに戻ると、下地は濡れておまけに雨漏りという酷い状況。
 唯一の安全地帯はマットの上だけという狭いスペースなので、どうにも落ち着かない。今夜は合羽を着て寝るしかないと覚悟したが、よく考えればここは民宿もやっていた。

 部屋に泊まろうかと受付に行くと、姉ちゃんから非難小屋を使えると助言された。キッチンや畳の休憩所がある小屋があるのは知っていたが、そこが非難小屋だったとは。よく見れば中にそう張り紙がされていた。これで台風の心配もなくなった。

 ちなみに、この日は私の誕生日だった。非難小屋で落ち着くと、スーパーで買った屋久島名物の首折れサバをツマミに、三岳を飲みながらささやかな宴を開催。
 これが普通のキャンプ場で非難所がなかったら、この夜は台風でとんでもない目に遭い、悲惨な誕生日を迎えたことだろう。




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