厳格な寺と適当な店 (千葉) 2008年9月7日


 城山公園は近所の老人の溜まり場なのか、早朝から人が多かった。どうやら丘の上の館山城まで散歩して、そこでラジオ体操するのが流行らしい。
 公園には6匹の野良猫が住み着いてみた。朝に公園を掃除しにきたおじさんが、猫たちに餌を与えていた。こういう人がいるからこの猫たちも生き延びられるのだろう。

 私のテントの所にも何かないかと猫たちが近寄っていたので、朝飯に食ったレトルト玉子丼の袋を切り開いて近くに置いてやると、僅かに残っているものペロペロと舐めて綺麗に片付けていた。

 犬を散歩しにきたおばちゃんから近くの情報を入手した。一つは沖ノ島にある洞穴で、もう一つは迷路のような広さがあるという赤山防空壕。どちらも近かったので行ってみた。

 沖ノ島は周囲1kmの小さな島。以前は500m沖合いにあったが、関東大震災などにより陸続きになったため、今は堆積した砂の上を歩いて渡ることが出来る。おばちゃんから聞いた洞穴も見つけたが、大したものじゃなかった。
 赤山防空壕は無料だったのだが、始まるのが10時からと1時間待ち。待ってられないので出発することにした。

 館山からは国道410号線で南下して萬徳寺を目指す。ここには長さ16mという涅槃像があり、青銅仏としての大きさは東洋一。それを見てみたくて訪れた。
 寺といってもそれらしき建物があるわけでなく、広い敷地に涅槃像が置かれているだけだ。500円の入場料を払うと受付にいた住職っぽいおやじから「線香を5本持って、案内に従って下さい」と言われた。

 涅槃像に向かうと、眉間に赤い印を付けたサリー服姿の姉さんが現れ、参拝の手順を説明してきた。それは、まず5本の線香をあげ、その後に額の上で手を合わせながら台座をあがっていく。4段ある涅槃像の台座は時計回りに上がっていくと足の裏に着くので、そこに着いたら手を付けて祈る。帰りは周らずにすそのまま降りる事が許されている。

 写真撮影にも決まりがあった。人が入っての記念撮影は可能だが、涅槃像のみの撮影は禁止。ここまで決まりがあるお堅い寺は初めてだった。言い換えればそれだけ厳格があるということにもなる。姉さんの格好やこの規則からすると、これは上座部仏教にでも属するのだろうか。

 気持ちいい海岸線を走り、昼に半島の南端になる野島崎灯台に到着。雨が降り出したので様子を見ようと、昼飯を兼ねて定食屋に入った。
 この店は弁当も扱っており、今日は運動会の弁当を作っていたらしく、その残りのおかずが多くあった。それを500円で見繕って貰った。

 中にあったテーブルで食べていると、頼んでもないのに味噌汁にお茶、漬物に葡萄、さらにはサザエまで出してきた。まさかエクストラを要求されるんじゃないかと思ったが料金は500円。なんだか徳した気分だった。
 弁当をそのまま持って帰っても500円だったろうから、これは私が自転車で旅してること知った上での、おばちゃんのサービスだったのかもしれない。

 雨もすぐに上がり天気は回復。昼寝して体力も回復し、午後から60km先の勝浦を目指す。30分走って10分休憩というサイクルで小まめに休みながら進む。しばらくはフラットな道で快調に走っていたが、勝浦の手前は上り下りが多くなり体力も底を付いてきた。

 今日中に何としても勝浦に到着しなければならない。その訳は、勝浦には日本三大朝市に数えられる、400年の歴史を持つ朝市があるからだ。
 これを翌朝に見るためには、今夜は勝浦に泊まらなければならない。最後はビールなどを飲みながら疲れを誤魔化し、日が暮れる頃に勝浦に到着した。

 今夜の寝床は三日月ホテル横のビーチ。正面の空には本物の三日月が浮かび、左右は所々のライトが反射してカラフルな色が海面に浮かび絵になる景色だった。
 ラジオの天気予報で東京は大雨だと言っていた。東京方面の空を見ると、ひっきりなしに雷が光っている。今夜はあちこちで光るものを肴にしながら一杯やった。




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