浪花節だよ人生は (台北) 2007年4月10日〜13日


 宿泊しているタイペイホステルのドミトリーで目覚めた時、隣のベッドに寝ていた若者が坊さんであることを知った。オレンジ色の袈裟に着替えていたからだ。
 なんで坊さんがこんな宿に泊まっているのだろうか。坊さんやもしくは修行僧ならば、どこかの寺に無料で宿泊出来そうな気がするのだが。確かこの宿のすぐ近くにも大きな寺があった。もしそこに用があるのなら、そこに泊まるはずだが。

 話しかけなかったので詳しい理由は分からないが、なぜ疑問に感じたかというと、この若い坊さんは朝食にハンバーガーを食べ、反対の手には携帯を持っていたからだ。もしかすると袈裟を着ていただけで、ただの旅行者だったのかもしれない。

 台北観光の最終日は、圓山駅近くの孔子廟を訪れた。台湾に孔子廟多くあるらしいが、ここは唯一政府が管理しているらしい。学問の神様である孔子の廟は日本で言うところの菅原道真を祀った神社。

 「勉強のご利益がある場所」として信仰され、受験シーズンには多くの受験生が訪れるそうだ。建物の作りは龍山寺に似ており、参拝客の祈り方も同じだったが、訪れてる人数はまばらだった。

 秀才になれますようにと願いにでも来たのか、小学生低学年の団体が先生に引率されてやって来ていた。どこの国でも子供は喧しいものだ。
 私は台北に来る前に、九州の福岡で太宰府天満宮を訪れている。あそこは菅原道真を祀った場所。学問の神を二入も訪ねたので、私の頭も少しは良くなるだろう。

 町には日本にもあるファーストフード店などをよく見かけたが、それらはどこも店名を漢字で表記していた。それはどうなるかというと、マクドナルド(麥當勞)、ファミリーマート(全家便利商店)、ケンタッキー(肯徳基)、ロッテリア(儂特利)、モスバーガー(摩斯漢堡)、サブウェイ(潛水艇三明治)といったものになる。

 日本人は漢字を理解出来るので言葉が話せなくても、屋台のメニューや商品の名前を見て、それが何だか分かる時あるし、想像して楽しむことも出来る。

 知人に手紙を出そうとポストカードを探したのだが、これが意外に苦戦だった。台北駅の地下街や駅前にある三越、その近辺の文房具店など、暑い日差しの下で探し回ったのだが、売っていそうな場所にポストカードがまったくない。
 諦めて宿に戻ろうと、食料を買いに台北駅前のセブンイレブンに入ると、なんとこんな所にポストカードが売っていた。文字通りコンビには本当に便利商店だ。

 今晩も夕食を兼ねて、華西街観光夜市を訪れた。夜市は何度来ても面白い。夕食には魚油の飯、猪足の骨付き肉、茹で白菜、スープを平らげて300円ほど。屋台の飯は何を食っても美味い。僅か3日の滞在だったが、毎食楽しむことができた。

 帰りがけに龍山寺の前の公園を通ると、着物姿で顔には編み籠を被っている尺八パフォーマーがいた。吹いていた曲は日本の演歌で、また「浪花節だよ人生は」だった。
 中正記念堂で見かけた社交ダンスもBGMはこれだった。この曲はよっぽど台湾人に人気があるのだろう。

 宿のリビングルームでは、宿泊客の数人がノートパソコンと睨めっこしていた。旅人のアイテムにもデジタルが加わり、そのスタイルも変化してるようだ。
 その姿を見て、日本の電車の中で携帯をいじくる乗客の姿と、このリビングでパソコンをいじくる連中が重なって見えた。

 情報を得るのには便利だろうが、迷いながら町を散策し、庶民感覚などに触れる方が数倍楽しいと思う。私は彼らに言ってやりたかった。「浪花節だよ人生は」と。




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