いろんなものが漬かってる (バンコク) 2003年7月21日〜24日


 ミャンマーを出国して隣国のタイに入国。エアポートバスから眺めるバンコクの町は近代都市に見え、東京のようにも思えた。

 タイのバンコクを訪れるのは今回を含めて3度目。安宿が集まるカオサン・ロードには西洋、東洋の旅行者が夜遅くまで溢れ帰っていた。ここはもうタイではなく、バッグパッカーの巣になっているようだ。

 宿はミャンマーのバガンで会った日本人の女から教えてもらった「A Geust House」にチェックイン。想像していたより清潔感がある宿で、ドミトリー100バーツの部屋にはエアコンも付いている。宿泊客は日本人だけで、受付の兄ちゃんは独学で覚えたという流暢な日本語を話す奴だった。

 バンコクにはATMが多くあるので、ミャンマーでギリギリだった懐も暖かくなった。ここまで観光客と出会う機会は極めて少なかったので、久々の日本語の会話や旅人たちの話を聞くのは良い刺激になり、気が付くとビールの空き瓶が増えていた。

 この宿には濃い内容の旅を味わっている連中がいた。旅を始めて10日しか経ってないのに強盗にあったという若者。インドへ行ったのだがタイの女に帰ってきてと言われ、2日で戻ってきた。そして挙句の果て、その女には昨晩フラれたという。

 日本の水商売で貯めた金で遊びに来ている女もいた。この女はゴー・ゴー・バーの男にハマっており、その男との馴れ初めを嬉しそうな顔をして事細かに語っていた。所詮は金と欲に彩られた恋愛ごっこだが、本人が満足すればそれでいいのだろう。

 風俗ビジネスが多く蔓延るバンコク。そんな状況の中で働く者にはそれぞれの理由があるのだろうが、こんな話も聞いた。
 体を売って金を稼いでいるのは、数年前に流行ったサッカー賭博で多額の借金を作った若者たちだと。タイはゲイやオカマが多いので、女だけでなく男もそうらしい。

 日本のコギャルと何ら変わらないようである。都市化していくプロセスでは、同じような現象を生み出すのだろうか。

 町に流れるチャオプラヤー川を船で対岸に渡り、噂に聞いていたスリラー・ホスピタル内にある死体博物館を見学しに行った。
 館内には幼児のホルマリン漬けや、銃殺や交通事故で亡くなった一部が損傷している骸骨、骨や臓器といった様々な物が展示されていた。

 怖いもの見たさの軽い興味本位で訪れたが、次第に真剣になるような内容だった。中でも20cm程の白くて小さな発育前の赤ん坊や、顔面を真っ二つに切られた男のホルマリン漬けは衝撃的だった。
 人間もこうなると、ただの標本にすぎない。賛否両論もあるだろうが、このような博物館は死や肉体といった事を意識出来る点ではいいのかもしれない。

 死体博物館で見た物を一時忘れるため、宿に戻ると自分をアルコール漬けにして、宿泊客たちとの会話を楽しんだ。
 女や男にハマっている者、またはクスリにハマっている者、一方ではホルマリンに漬かる死体など、バンコクではいろんな物が何かに漬かっていた。




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