成せば成る (愛媛) 2002年


 早朝に卸三戸遊園地キャンプ場を出発。標高700mに位置する久万高原から46番浄瑠璃寺までは長い下り坂。ノンストップで下りていく坂は実に爽快だった。
 この辺りの寺は近くに分布していたので、46番浄瑠璃寺から51番石手寺まで一気に巡ることが出来た。石手寺は立派な寺だった。洞窟のような地下通路もあり、そこには一風変わった仏画が飾られていた。

 石手寺を参拝した後、近くにあった道後温泉へ。夏目漱石の小説「坊ちゃん」にも描かれたというこの道後温泉は、日本の最古湯の一つ。食事付きの温泉料金は高かったが、温泉のみの料金はそれほど高くなかったので、この最古湯で汗を流していった。湯船に浸かるのは一週間振りくらいだったので、実に気持ちが良かった。

 道後温泉駅の前には足湯や湯釜、坊ちゃんからくり時計などがあった。いかにも温泉街といった趣で、さすがに観光客が多い。近くにコインランドリーを見つけたので、休憩がてら洗濯も済ませる事が出来たのは好都合だった。

 その後、52番太山寺、53番円明寺を巡り、国道196号線を北上して今治市に到着。遂に自転車による八十八ヶ所巡りを達成した。
 思いつきで始めたこの旅は、移動はチャリで宿泊は全てテント。かかった金といえば食費と酒代くらいなので、2万円くらいしか使わなかっただろう。

 この嬉しさを誰かに伝えたく、最初に自転車を買った今治市内の店に行ってみたが、あいにく休みだった。
 だが、今治駅で祝杯のビールを飲んでいると、地元のおばさんに声を掛けられたので、話を聞いてもらった。おばさんには私と同年齢の息子がいるらしく、自分の息子もあなたみたいに元気だったらいいのにと、私とは裏腹にしんみりと話していた。

 その後も駅前でビールを飲んでいると、旅を始める初日にここで出会った若者と再会した。私が一周を成し遂げた話をすると、若者も一周してきたと言ってきた。前に会った時の話では既に二周していたのに、また一周したとは余程の暇人らしい。

 最初に会った時と同様に、やはり若者の話には信憑性がない。同じ時期に一周してたならば、どこかで顔を会わせてたはずだ。多分一周などしていなく、あれからずっとこの辺りにいたのだろう。

 若者は最初に会った時と同様に、九州でのバイト話をまた持ちかけてきた。やはりこれが目的らしい。私はこの先本州へと渡り、引き続き自転車の旅を続けるつもりでいた。この得体の知れぬ若者と長話をするのは面倒だったので、バイトには他の奴を探してくれと、別れを告げてその場を去った。

 自転車が走れるしまなみ街道の出発地点には糸山公園があったので、今夜はここでテントを張ることに。米を炊いて簡単に食べれるものとして、レトルトカレーや缶詰などを購入しておいた。公園だと近くにトイレや水場があるので、米を炊くのも、その後に鍋を洗うのも安易に出来る。

 とにかく今日は八十八ヶ所巡りを達成したので大満足だった。一周に要した日数は16日。合計の総合距離は約1400km位にはなるだろう。天候にも恵まれていたので日中の雨は一度もなかったし、このエー・プリンセス号がパンクする事もなかった。
 何の計画も持たずに訪れたこの四国。最初は八十八ヶ所巡りが寺巡りだという事さえ知らなかった。しかし、成せば成るとはこういう事だろう。

 遍路巡拝の目的の一つには、八十八ある煩悩を取り除くというものがある。しかし、自転車での四国一周が目的だった私の遍路巡拝は、煩悩を取り除くどころか、新たな刺激をもたらした。
 明日からは新たな旅のスタート。ここから各地を観光しながら、地元の神奈川まで自転車で帰るのだ。四国一周が出来たのだから、神奈川までも遠くはないはずだ。




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