しまなみ街道 (愛媛〜広島) 2002年


 四国で中古のママチャリを買い、16日間で八十八ヶ所巡りを達成した。そのチャリを捨てるのはもったいないので、どうせならと自宅がある神奈川まで乗って帰ることに。まずは遍路を終えた愛媛の今治市から、しまなみ街道で広島の尾道を目指すことにした。

 しまなみ街道は、瀬戸内海に浮かぶ6つの島を経由していく。島を繋ぐ橋の通行には料金が必要だったが、料金所は無人で料金箱が置かれているだけ。一応カメラは設置されていたが、動いてはなかったのだろう。

 車ならバイパスがあるので走りやすいが、自転車の場合は橋を渡るごとに島の一般道へ下り、迂回しなければならないことが多かった。どうせ島ごとを走るのだからと、いくつかの観光地に寄って行った。

 大三島では樹齢2600年ともいわれる日本最古の楠があった大山祇神社へ。生口島では東照宮を模したという私寺の耕三寺へ。どちらも由緒ある立派なものだったが、四国で八十八もの寺を見てきた私には感動は通常の半分程。耕三寺の上にあった真っ白いテーマパークはやけに印象的だった。

 しまなみ街道はサイクリングをする者に、走りがいのあるコースのようである。この日もレース用のような自転車でヘルメットというサイクリストを何人も見た。
 途中で休憩していた時、そんな容姿でサイクリングしていたおじさんと会話になった。私が四国一周してきた事を話すとママチャリを見て、それでここまで走ってきたのかと信じられない顔をしていた。

 尾道の手前にある向島で今夜はテントを張ろうと考えていた。それにはまだ時間が早かったので尾道まで走り、市内観光をすることにした。
 尾道駅の上の方は斜面で坂道が多く、細い路地も入り組んでいたので、自転車を置いて歩いて周った。

 迷路のような路地で道に迷ったので、地元の婆ちゃんに声を掛けどこか見所はないかと尋ねた。この婆ちゃんがえらく親切な人で、犬の散歩がてら町を案内してあげると、一緒に歩きながらガイドをしてくれた。

 尾道は映画監督の大林宣彦がお気に入りの町らしく、映画のロケ地として何度か使用されているようだった。映画の中で使用された階段や家などを、婆ちゃんは細かな説明をつけながらガイドしてくれた。他にも菅原道真が休憩した石がある寺などもあった。

 山頂には千光寺公園があったので、そこを今夜の寝床にしようと考えていた。その事を婆ちゃんに話すと、野犬がでるから止めた方がいいと言われた。近くの寺の空き地でテントを張ればと寺に頼んでくれたが、住職にあっさりと断られた。

 とりあえず公園まで行ってみようと、尾道駅の交番で距離を聞いてみた。しかし、尾道は観光名所だから公園でのキャンプは止めろ、キャンプをするなら向島まで戻れと、警官に提案された。そして、私のなりを見て金がなさそうだと思ったのか、これを使えとフェリーの回数券をくれた。

 来た道を引き返すのは嫌だったが場所もないし、回数券も貰ったので、もう一度向島まで戻ることにした。テント張るのに適した場所がなかなか見つからず、結局、因島に架かる橋の近くまで戻ってきてしまった。

 橋の近くに小さな公園があった。隣が民家だったがもう移動する体力はなかったので、ここを今夜の宿に決定。テントを張った後に休んでいると、隣の民家のおやじが何をしてるんだと私を確認しに来た。

 私はいきさつを説明して一晩だけ泊まらせてくれと、渋り顔のおやじを何とか説得した。四国ならば大目に見て貰えた事も、お遍路とは関係なくなった本州ではそうはいかない。もはや私はただの旅人でしかないのだ。




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