無料のバス宿 (徳島) 2002年


 早朝に鮎喰川を出発し、18番恩山寺まで約1時間のサイクリング。その次の19番立江寺では、昨日11番の藤井寺で出会った年配の夫婦と再会した。20番鶴林寺までの急坂はかなりつらかった。ここでもまた年配の夫婦と再会。これも何かの縁かもねと、一緒に記念撮影をした。

 21番大龍寺は山頂にあったがロープウェイで直行。ここでもまた年配の夫婦と再会。彼らは車で移動しているのに、自転車の私とやけに会うのもおかしなものだ。寺の正式な参拝方法とやらは余程の時間が掛かるのだろうか。

 かつてはこの大龍寺も難所のひとつだったらしいが、101人乗りの超大型ロープウェイが開通してからは、麓から僅か10分で山頂に着けるようになり難所は解消されたらしい。
 ロープウェイからの景色も壮大で、山の麓に流れる那賀川はカヌーで有名らしく、川面に浮かぶカヌーの姿が見えた。

 ロープウェイを降りて寺に向かう途中で、崖の上に5匹の狼の石像や弘法大師の石像が目に付いた。この弘法大師の石像までも上がっていくことが出来た。
 道中には88体の石像があり、1番から88番までの寺の名前がそれぞれに刻まれていた。弘法大師の石像は胡座をかいた姿で崖の上にあった。彼が24歳の時にここで修行をしたという。一体何を考え、何を悟ったんだろうか。

 ロープウェイで下山した後、22番平等寺、23番薬王寺と巡り、日和佐町のセルフうどん屋で夕食を済ませた。このセルフうどんは自分で麺を茹でて汁を汲むもので、料金も安かった。うどん大国ならではの店だろう。

 今夜の寝床はこの先にある無料の宿を利用するつもりだった。以前出会った学生から貰った情報の紙に、この無料宿が載っていたのだ。そこは橋本屋という大きなレストランの駐車場に置かれている、古いバスを改造したものだった。

 バスの中は畳でテレビや布団が置かれ、既に先客の女の子が1人いた。彼女は北海道から来た22歳の女の子で、私と同じように八十八ヵ所巡りを自転車でしていた。
 1番の寺から順番に巡ってきた彼女は今日で5日目。警察官の就職が決まっていて、その体力と自身を付ける為にこの旅をしていた。今夜ここに泊まる人がもう1人いるが、その人は今銭湯に行ってるという。

 無料バスの宿は夕方6時前までに来れば、レストランから夕食のご接待があると彼女から聞いた。それはともかく、厨房にいる店の主人に泊まらして貰うことを告げに行くと、丁度夕食の支度をしている所だった。私が泊まることを知ると、主人は既に6時を過ぎていたのに私の夕食も急遽支度してくれた。

 しばらくすると、もう1人の旅人が銭湯から戻ってきた。この人は千葉から来た54歳のおじさんで登山マニア。会社の出張で四国に来ているらしく、その間の暇を利用して八十八ヵ所巡りと登山をしていた。日本には百名山と呼ばれる山があり、その一つがこの近くにもあるとのことだった。

 用意された夕食を食堂に取りにいき、3人でバスの中で食べた。夕食は店で出されるような豪華な定食。セルフうどん屋で2杯もうどんを食べていた私は既に満腹だったが、折角用意してくれたご接待の夕食を残すわけにはいかないので、なんとか全部平らげた。この御馳走と久々の布団という満たされた環境で、今夜は熟睡する事が出来た。




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