本場のうどん (香川) 2002年


 今日は琴弾公園で1日のんびりする予定でいた。しかし、朝食を済ませてテントに戻った時、公園を掃除していた老人たちから、キャンプするならこの先のキャンプ場へ行けと注意されたので、荷物をまとめて出て行かなければならなくなった。

 後で知ったのだが、琴弾公園の中には「寛永通宝」と呼ばれる巨大な銭形の砂絵があった。その大きさは、縦122m、横90m、周囲345mの楕円形で、公園山頂の展望台からその姿を一望できるようだった。
 老人たちに追い出されずに公園で1日ゆっくりしていれば、知ることが出来たかもしれない。砂絵を見逃してしまったのは少々残念だった。

 相変わらず体は疲れていたがゆっくりなペースで走り、今日は70番本山寺から78番郷照寺まで計9つの寺を巡ることが出来た。上り坂の個所も多かったが、以前行った横峰寺への坂道に比べれば大したことはなかった。

 昼時に76番金倉寺の近くにあったうどん屋に立ち寄った。四国と言えばやはりうどんである。本場の味を楽しみたいと思ったので、そこで醤油うどんの大280円を注文した。
 品名から考えれば醤油味の汁のうどん。さぞかし美味い麺と汁なのだろうなと考えていると、間髪いれずに注文の品が運ばれてきた。

 このスピードも本場ならではなのか。期待を胸にどんぶりを見てみると、そこには麺だけで汁が入ってなく、小皿に乗った薬味だけ付いてきた。まさか、うどんの本場では汁など飲まず、薬味のみでうどんを味わうのか。

 私は幾ばくかのカルチャーショックを覚え、店のおばちゃんに恐る恐る聞いた。
「頼んだのは確か醤油うどんだよね」
 うろたえてる私をよそ者と気が付いたのか、おばちゃんはこう言った。

「テーブルの上にある醤油と味の素をかけ、薬味を混ぜて食べなよ」
 言われた通りに食べてみたが、まったく美味くない。本場の味を求めていた私の期待はこの醤油うどんに打ち砕かれ、代わりに挫折と 敗北を味わうことになった。

 今夜の寝床は宇多津駅の近くの道の駅うたづ臨海公園。芝生も多くあり、テントを張るのにはもってこいの場所だった。おまけに公園からは瀬戸大橋が見渡せるなかなかのロケーション。

 近くには大きな温泉施設もあった。そこで風呂に浸って汗を流そうと思ったが1800円という料金を聞いてバカらしくなり、今日は風呂を諦めることにした。
 こういう旅をしていると、数日風呂に入らなくても気にならなくなる。ましてやそんな金を使うなら美味いものを食べて酒でも飲んだ方が、よっぽど体の為にもなる。

 日本一降水量が少ないという香川県だが、明日は雨かもしれないと、途中で立ち寄ったコンビニで聞いたラジオが伝えていた。旅を始めてからまだ雨には一度も降られてない。明日も晴れてくれるといいが。
 昼間のうどんのショックがまだ残っていた私は、せめて夢の中でうどんを味わおうと、早々に眠りについた。




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