まさに野宿 (愛媛) 2002年


 早朝に加茂川を出発し、昨日とばした第60番霊場横峰寺へ向かった。横峰寺は標高750mに位置してる。重い荷物を持ったままではきついだろうと考え、加茂川にテントを残して必要な物だけを持って出発した。

 いくら荷物が少ないとはいえ、自転車を押しながらの山道は想像以上にハード。寺まで5時間位はかかっただろう。散々苦労して上がった坂道も、帰りはあっという間。加速した自転車で山を下っていくのは、何ともいえない爽快感だった。

 昼過ぎに石鎚温泉に戻り、無料休憩所で昼飯。そこで飯を食っていると、昨日の兄ちゃんが戻ってきた。兄ちゃんは私が去る時に、余ってるから持ってけとリンゴを2つくれた。ここにもまた親切があった。

 加茂川で汗を流して一時間程昼寝。次の第65番霊場三角寺はここから30km離れている。今日の内に少しでも近くまで行っておこうと、重い体を起こして出発。5時間も山登りをした体だったが、ペースに乗ると思いのほか足取りは軽かった。

 3時間ほど国道11号線を走り、暗くなり始めた頃に川之江の町に到着。駅でタクシーの運ちゃんにテントが張れそうな場所はないかと聞くと、3km先にある余木崎海水浴場がいいと言う。既に疲れきっていたが、無理してそこまで自転車を走らせた。

 しかし、そんな努力も空しく、余木崎海水浴場は8月末で既に閉鎖していた。近くを歩いていたおばちゃんから少し戻った消防署の前に砂浜があると聞いたので、仕方なく来た道を引き返す。

 ようやく寝床にありつけると思ったが、おばちゃんが言っていた砂浜とは畳一枚程の広さしかなく、とてもテントを張れるような所ではなかった。この辺りは海岸線なのだが、テトラポットばかりで砂浜がほとんどない。いい場所が見つかりそうもないので、 再び川之江駅まで戻ることに。

 駅前の商店街で、婆ちゃんから近くに公園がある情報を得た。それ程広くないがテントを張るスペースはあり、銭湯も近くにあるという。私が明日65番三角寺に行く事を知ると、婆ちゃんはそれなら別の場所がいいと提案してきた。

 それは明日訪れる予定の三角寺付近にあるキャンプ場で、道中には湯の華温泉もあるという。キャンプ場は5km先だといので、僅かに残っている体力を振り絞りながら再び自転車のペダルをこぎ始めた。

 湯の華温泉に着いたので一風呂浴び、併設している食堂でビールを飲んで落ち着く。料理を運んでくる姉さんにキャンプ場の場所を聞くと、まだまだ距離があるという。おまけに三角寺よりも先にあるので、キャンプ場で泊まったらまた寺まで戻る必要があった。

 どうしようか考えてる私に姉さんは提案してきた。「この温泉は夜の11時半までやってるからそれまでここで休んで、その後その辺のバス停で寝たら」。キャンプ場まで行く体力は既になく、あるのは酔いだけだったので、提案に従うことにした。

 食堂で横になっていたら知らぬ間に寝ており、店を閉めるからと姉さんに起こされた。横峰寺の登山道が体に堪えたのかひどく疲れてる。もう動く気力はなく、すぐにでも眠りたい。温泉の向かいには既に閉店している寿司屋があったので、その駐車場でそのまま横になって寝た。これはまさに野宿だった。




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