自転車を購入 (愛媛) 2002年


 今治市内で中古自転車を6500円、パンク修理セットを1000円で購入した。自転車は前に籠があり3段ギアが付いているだけの、俗にいうママチャリ。愛媛で買ったというで、この自転車に「エー・プリンセス号」という名前を付けた。
 そして高松の観光案内所で入手した八十八ヶ所巡りの地図を元に、今治市内にある第54番霊場の延命寺から自転車による四国一周の旅をスタート。

 昨晩会った若者から聞いた話では、八十八ヵ所巡りでは巻物を購入し、訪れる寺でスタンプを押すという。しかしそれは無料ではなく、1ヶ所ごとに300円を払わなくてはならないらしい。
 全部押された巻物はご利益や価値があるようで、自分で回れない老人などがその巻物を欲しがり、たまに10万くらいの高値で売買されるという。

 中にはそれを目的に寺巡りをしている者もいるらしい。お遍路の道中には無料で泊まれる宿坊などがあり、そこではその巻物を狙った盗難も多いようだ。
 そもそも私の目的は修行などという高尚なものではなく、自転車で四国を一周すること。なので巻物やスタンプはそもそも必要ない。代わりに使い捨てカメラを買い、記念に訪れた寺の写真を全部撮ることにした。

 スタート地点の54番延命寺付近には、55番南光坊、56番泰山寺、57番栄福寺が点在していたので、出だしからスムーズに巡れた。
 57番栄福寺では、自転車で八十八ヵ所巡りをしてるおっさんと出会った。私の荷物は身軽だが、おっさの自転車には山のように荷物が搭載されていた。ぱっと見は夜逃げでもしてきたとしか思えない。

 話を聞いてみるとおっさんは名古屋出身で、八十八ヵ所巡りを始めたのには明確な意思を持っていた。それは、過去に交通事故で九死に一生を得て、金も仕事も無くなり四国へたどり着いたのが始まり。
 その後、寺の坊さんから、事故で助かったのは母親の霊が守ってくれたおかげで、八十八ヵ所の寺を巡れば成仏してない母親の霊があの世に行け、自分も幸せになれると言われたようだ。

 しばらくおっさんと世間話をして、次の寺へ向かう。58番仙遊寺は小高い丘の上に位置していたので、自転車を押しながら上る坂道はかなりしんどかった。
 59番国分寺の土産屋の兄ちゃんはえらく親切で、ご接待させてくれとアイスをくれ、おまけに小さなタオルとこの周辺の地図までくれた。

 昨晩会った若者からも、栄福寺で会ったおっさんからも聞いていたこの「ご接待」。お遍路に対して地元の人がもてなす親切のようなものらしい。
 この土産屋の兄ちゃんがしてくれたようなささやかなものもあれば、中には食事や宿を無料で提供する人や、小遣いとして幾ばくかの金をくれる人までいるという。

 第60番霊場の横峰寺は、西日本最高峰である石鎚山中腹の標高約750mに位置する。その為に時間がかかるので、ここは翌日に訪れる事にして、その先の61番香園寺、62番宝寿寺、63番吉祥寺、64番前神寺と巡った。その辺りで日も沈んできたので今日の寺巡りはここで終了。初日から9つの寺を巡ることが出来た。

 64番前神寺の近くには石鎚温泉があり、入口で野菜や果物を売ってる兄ちゃんがいた。近くでキャンプ出来る場所はないかと聞くと、この先にある加茂川がいいと教えてくれた。
 温泉は普通の銭湯と変わらない料金で、中にはコインランドリーもあったので、加茂川に行く前に1日の疲れを癒す事に。

 コインランドリーにいた従業員のおばちゃんは、私が八十八ヵ所巡りをしている事を知ると、タオルやシャンプー、リンスなどを分けてくれた。これもご接待の一つだったのだろう。

 キャンプ地に選んだ加茂川の河川敷では、「西条芋たき」という祭りが行われていた。これは、芋鍋を摘みながら川沿いで呑めるというもので、料金は1人前1500円。私は既に夕食は済ませていたので鍋は食べなかったが、酒を買ってその場で祭りの雰囲気をつまみに飲んだ。

 夏の終わりの涼しい夜に、川原で鍋をするというのもなかなか風情がある。周辺にはゆっくりした時間と、芋のいい匂いが流れていた。




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