時は金なり (二ツ亀〜姫崎) 2010年5月19日


 早朝に目を覚ますと降ったり止んだりの雨模様。ラジオの天気予報も今日明日は天気が悪いと伝えている。
 右足首には強烈な痛みがあり、相棒のカート・ニバーンV世も重症中。これから南下する道中に大きな町はなく、めぼしい観光地もキャンプ地もなしと悪条件が重なっていた。

 途中で観光する場所があればまだいいが、壊れかかっているカートを痛む足で引きずりながら、雨の中を歩くだけはつまらない。
 それに、もし途中でカートが壊れたら、それこそ最悪な展開になる。ここは佐渡だが、私は辛さに快感を覚えるマゾじゃないのだ。

 キャンプ場の上にはバス停があったので、もしバスがタイミングよくあったら両津まで行こうと考えた。両津は大きな町なので、ホームセンターがある可能性は高い。
 荷物をまとめてバス停に行ってみると、なんと5分後にバスがある。これを逃すと次は3時間後だったので、迷わずそれに乗り込んだ。

 両津までの海岸線には浜はなく、どこも波止場ばかりだった。今夜のキャンプ地候補だった馬首辺りも、予想通り何もなかった。たまに空き地を見かけただけだったので、もし歩いていたら今夜は寝場所探しに手間取っただろう。

 佐渡といえば有名なのが、国の天然記念物であるトキが生息してること。そのトキを見ることが出来る場所は、佐渡トキ保護センターに隣接するトキの森公園だった。
 ここまで来たのだからその姿を一目見て帰らねばと、ホームセンターはひとまず忘れ、トキの森公園へ行くことにした。

 乗っていたバスは両津経由の佐和田行きだったので、都合よくトキの森公園近くまで行くことができた。運ちゃんに一番近いバス停で下ろしてもらい、そこから2km程歩いてトキの森公園に到着。

 入場料は200円と安かったトキの森公園だが、トキは間近では見れず、ガラス越しに10m位離れた飼育の檻を眺める仕組みだった。肉眼では僅か1cmの大きさにしか見えない。双眼鏡が置いてあったが、それで眺めてもリアルさに欠けた。

 さらに、ここに来て初めて知ったのは、日本生まれの野生のトキは既に絶滅してるということ。この頃ニュースでは野生のトキの雛が誕生するかもしれないと報道されていたが、そのトキも中国から譲り受けたメイド・イン・チャイナだった。

 トキが観察出来る資料展示館内には、最後の野生のトキだった「キン」の剥製が展示されていた。1968年の捕獲以来飼育されていたメスのキンが亡くなったのは2003年。その死因はゲージ内で突然飛翔した為に、扉に衝突して頭部挫傷を起こしたこと。
 鳥類は知能が高いはずだが、こんな自殺みたいな事故で亡くなったとは。まあ、36歳という長寿だったので、既にボケていたのかもしれない。

 トキが中国産だったことには白けたが、ここで手に入れた「えール」という無料の情報誌で、佐渡についての大きな収穫があった。
 一つは「いごねり」というソウルフードがあること。これは、海草のエゴ草から作られるところてんのようなもので、醤油、生姜、ネギなどを和えてツルツルっと食べるもの。

 もう一つは「鬼太鼓」という伝統芸能があること。鬼の面を付けた者が太鼓を叩くのだが、その型やスタイルは集落ごとに違うようで、集落が120なら鬼太鼓も120あるという。この鬼太鼓のイベントが4日後に両津で開催されるとのことだった。どちらも堪能して帰らなければならない。

 新たな情報を得れたのは、今朝バスに乗る判断をしたのが良かったのだろう。あのままバスに乗らずノロノロと時間を無駄にして歩いていたら、こういう展開にはならなかった。トキの名前がキンだったように、やはり時は金なりである。

 先の楽しみが増えたので、早朝の落ち込み気分や足の痛みをすっかり忘れた。ここから飼育されたトキが空に羽ばたいていくように、私も再び野生のフィールドへと歩き出した。 

[この日の写真]




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