願いは叶わず (入崎〜二ツ亀) 2010年5月18日


 入崎キャンプ場を出発してすぐに、引っ張るカートにブレーキが掛かったような抵抗があった。調べてみると荷台部分の横軸の一部が外れており、それがタイヤのホイールにあたって負荷をかけている。一番起きて欲しくないアクシデントの発生だ。

 だが、軸を元の状態に戻せばスムーズにタイヤが回ったので、海岸に落ちていた紐を使って応急処置。それで抵抗はなくなったが、紐が緩んでしまうとまた同じ状態になる。何度も紐を締め直す治療を施しながら、目的地である北端の二ツ亀へノロノロと亀のように歩いていった。

 新しいカートを買えば問題は解消できるが、この辺りにホームセンターがある気配は皆無。商店すら見ないし、2日後に到着する両津までは大きな町はない。
 どうにかそれまでもってくれと願いながら歩いていると、今度はカートの縦パーツに異常が発生。てこの原理が効かなくなり、その部分だけが地面に倒れるようになってしまった。

 もはやカート・ニバーンV世もこれまでかと思ったが、これも紐で結ぶ荒治療が施せたので、どうにか一命だけは取り留めた。だが、死期はもう間近に迫っているはず。最悪こいつが死んだ場合は、バスに乗るかヒッチハイクをするしかない。

 ほとんど廃墟と化した集落や手掘り感が残るトンネルなどを通過し、日本三大巨岩のひとつである大野亀に到着。初夏にはこの周辺一面に黄花カンゾウが咲き乱れるというが、5月中旬のこの時期では、まだその景色を見ることは出来なかった。

 この大野亀から目的地の二ツ亀までは自然遊歩道があり、その途中に幼くして死んだ子供の魂を鎮める賽の河原があった。一周線を歩かずにその遊歩道を抜けて二ツ亀へと行きたかったのだが、遊歩道の入口が見つからない。
 そのまま一周線を歩いていると、願(ねがい)という集落を抜けて賽の河原へ行けると書かれた案内板があったので、その路地を海へと下って行った。

 小さな漁村の願の奥まで進むと、そこからは人しか歩けない幅1mくらいの細い道になっていた。そこでワカメを干していた婆ちゃんに尋ねたところ、途中で一箇所だけカートを担げば二ツ亀まで行けるというので、その言葉を信じて先へ進んだ。

 だが、平らだった歩道は途中から、大きな石ころを敷き詰めたでこぼこ道に変化。そのまま無理してカートを引っ張ったが、道の状態は酷くなる一方。相棒も悲鳴を上げ始めたので、このまま進めばご臨終になるだろうと、途中でカートを置いて賽の河原へ向かった。

 その先の歩道はさらにでこぼこになり、担がなきゃならない段差も一箇所じゃなかった。カートを置いてきたのは正解だ。そのまま来ていたら、カートを賽の河原に鎮めることになっただろう。

 河原から戻ってまた婆ちゃんと話をしていた時、干されたワカメの横に黒いものがぶら下がっているの気が付いた。何だろうと近付いて見ると、なんとカラスが干されていた。
 驚いた私は婆ちゃんに「これは食べるのか」と何度も聞いてみたが、耳が遠くて話が通じない。答えてくるのは関係ない話ばかりなので、何の為に干していたのかは謎だ。

 ワカメなどを盗み食いしてきたカラスへの報復で、吊るし上げの刑にしていたのだろうか。もしくは願の集落では干しカラスを食べる習慣があるのだろうか。もしそうなら、それは値がいいに違いない。

 二ツ亀へ抜けれる願いは叶わなかったので、一周線に戻ってキャンプ場へ向かった。フィッシャーズ・ホテル横の急坂を下りて到着したキャンプ場は、二ツ亀を見下ろす高台にありロケーション抜群。ただ、地面には平らな場所がほとんどなく、亀の甲羅のような傾斜地ばかりだった。

 テントは二ツ亀の前の海岸に張りたかったが、そこまでは長い階段を降りなければならなかったので、ここで傾斜の緩い場所を探してテントを設置。キャンプ場は有料だったのかもしれないが、管理小屋には誰もいなかったので無料で使用できた。

 今日は願いも空しく、カートが故障するというトラブルが発生。相棒の寿命は近付いている。この先にホームセンターがあって欲しいという願いは叶うだろうか。

[この日の写真]




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