おもてなしの店 (佐和田〜達者) 2010年5月16日


 目が覚めたら北朝鮮だった。なんてことはなく、佐和田海岸のテントで朝5時に目が覚めた。しかし、外に出てみると、異様な光景が目に飛び込んできた。それは、昨日まったく見かけなかったチャリダー連中が、次から次へと海岸線に出現したのだ。

 それが数人なら日常の風景で片付くが、その数が半端じゃなく、軽く1000人は超えていた。その後、数十分もしないうちに海岸線はチャリダーで埋め尽くされていった。

 何事かと集団の先頭まで行ってみると、なんとこの佐和田海岸が佐渡ロングライド210のスタート地点になっていたのだ。
 昨日チャリ集団をみかけなかったので、てっきりスタート地点は別の場所と思っていたのだが、これじゃおもいっきりバッティングである。

 スタート地点でいろいろ調べてみると、ロングライド210のスタートは5時45分。コースはA、B、C、Dと4つあり、島一周、半周、それ以下と分かれていた。出場者が付けていたゼッケンには6000番台もあったので、かなりの人数が出場していたのだろう。

 スタート前の司会者の説明によると、大会はレースでなく完走することがメインだという。レースだったら早朝から意気込む気持ちも分かるが、島を走りたいだけだったら何も大会に参加しなくても、自分で都合のいい日に勝手に走ればいいと思うのだが。まあチャリ好き連中は参加することに意味があるのだろう。

 もしここがスタート地点と気付かずにこれより早く出発していたら、おそらく私はこの日はどこかでチャリに轢き逃げされただろう。それだけの数がいたのだ。
 とにかく、この軍団がいなくならないと落ち着いて歩けないので、全員がスタートした後の7時頃に私もロングウォーク210をスタートした。

 チャリ軍団の姿がまったくない静かな道路を黙々と進み、だんごで有名な沢根に到着。そこで筋肉痛に効くバンテリンを忘れたのを思い出したので、薬局に寄って購入した。

 ついでにもう一つ思い出したことを店のおばちゃんに聞いてみた。それは、曽我ひとみさんの旦那であるジェンキンス氏が、土産屋で働いているということ。前に読んだ本の中にそう書いてあったのだ。

 おばちゃんに聞くと、やはりジェンキンス氏は佐渡伝説館にある土産屋で煎餅を売っていた。通り道にあれば立ち寄ろうと思ったが、伝説館は真野だったので昨日既に通り過ぎてしまっていた。

 沢根からはショートカットせずに、そのまま県道45号線の佐渡一周線を進んで七浦海岸を目指す。この辺りではロングライドのCコースかDコースの連中だろうか、早くも折り返してくるチャリダーたちと頻繁にすれ違った。
 その後、長手岬を過ぎてそのまま北上し、七浦海岸の夫婦岩に到着。ドライブインがあったので早めの昼飯にすることにした。

 昼飯にはカロリーメイトとエネルギー補給のゼリー飲料を用意してるが、これだけでは足りないのでおにぎりが欲しい。しかし、ドライブインのレストランには定食や丼もの、ラーメンなどはあっても、おにぎりは置いてなかった。コンビニがあるのは次の町で、それは数キロ先だと店のおばちゃんは言う。

 おにぎりだけが欲しいと私が呟いてると、それを聞いたおばんちゃんが店主に話してくれた。その結果、メニューにはないおにぎりだけを特別に作ってもらえることになった。
 店主がその時に料金を告げてきたのだが、「〜30円になるよ」と百円台の数字がよく聞き取れなかった。空腹で疲れて聞き返すのも面倒だったので、百円台は1か2くらいなものだろうと考え、それでお願いしますと頼んだ。

 しばらくして出来上がったおにぎりはパックに2つ入っており、加えてひじきが少々と沢庵が4枚入っていた。そして、告げられた料金を聞いて私は驚いた。
「630円になります」
 ろ、ろ、ろっぴゃくさんじゅうえん!。思わず私はオウム返しに聞き返したが、間違いではなかった。

 どうしたらおにぎり2つで630円にもなるのか。高くても300円が相場だろう。このレストランではカレーライスや牛丼が700円だし、ラーメンだって600円で食えるのだ。おにぎり2つが630円なら、誰だって肉のある700円の牛丼を頼むのが普通だろう。

 だが、料金をはっきりと確認せずに頼んだのは私なので、いまさら文句は言えない。仕方ないので、ぼったくりとも思えるその高価なおにぎりを貪ることにした。
 このレストランの店頭には「おもてなしの店」という暖簾が掲げられていた。そしてここは七浦海岸。ぼったくりおにぎり以外にも、あと6つの裏メニューが隠されているに違いない。文字通り表なしの店であり、とんでもないおもてなしをされたもんだ。

 今回の歩き旅は無理をせずゆっくりペースで進もうと、14時に到着した達者海岸で今日のウォークは終了。早々にテントを組み立てて、ゆっくりとくつろいだ。
 達者ビーチがあるのは尖閣湾という奇岩が入り組んだ景勝地。風光明媚な景色でも堪能できるかと思っていたが、目の前は防波堤という殺風景だった。

 日差が強く暑かったので、それならひと泳ぎして楽しもうと海に足を入れてみたが、水はまるで氷のような冷たさ。5月中旬という時期に北陸の海で泳ぐのは、さすがにまだ早かった。やはり、日本海は甘く見ちゃいけないようだ。
 水の冷たさを見極められる程の達者にはまだ至ってないようだが、今日はあんな高価な米を食ったのだから、これからはそこそこ達者に暮らせることだろう。

[この日の写真]




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