キャンプ地選びは慎重に (小木〜佐和田) 2010年5月15日


 佐渡太鼓体験交流館の兄さんに貰ったノンアルコール・ビールを飲みながら沢崎鼻灯台を訪れた。
 そこから北側の海岸線に出ようと歩いていくと、トンネルの手前で小さな港を発見。そこにはエンジン付のボートやたらい舟が何艘もあった。やはりたらい舟は現役で活躍してるようだ。

 その先にあった江積集落辺りはローカルな海岸線で、干された海草や棚田など絵になる風景が点々とあった。それらを眺めながら、今夜の宿泊場である素浜海岸を目指した。

 浜まであと数キロの井坪集落辺りで急勾配の坂を必死に登っていると、1台の軽トラックが私の後ろで停車しておじさんが降りてきた。
 この人は1kmくらい手前で通り過ぎた建設現場の仮設事務所の中にいた人で、荷物を引きながら歩く私の姿を見ていたようだ。

 旅の内容を説明しながら今夜は素浜海岸でキャンプすると話すと、「その辺は何もないから、キャンプするなら真野の辺りまで行った方がいい。俺も今からその辺まで行くから乗ってきな」と提案された。

 何もないのは既に知っていたので問題はないが、車に乗ってしまうと歩き旅が成立しなくなる。断ろうと思ったが、それよりも重大な問題が私には一つあった。
 それは今夜の酒のことである。交流館の兄さんに貰ったのはノンアルコール・ビールだし、それもすでに飲み干していた。

 酒屋についておじさんに尋ねると、真野の浜まで行けば近くにコンビニもあるという。それを聞いた私は迷わず「それじゃ、お願いします」と車に乗せて貰う事にした。
 頑なに歩き旅にこだわらなくてもいいのだ。旅の出会いが重要なのである。私はそう自分を納得させた。

 車の中でおじさんから佐渡について色々と聞くことができた。面白かったのは、佐渡と新潟では言葉が違うらしく、分からないこともあるのだという。
 また、佐渡金山で金は採れないらしく、西三川ゴールドパークの砂金採り体験で使われている金は、他所から持ってきてるものだとも話していた。
 それと、佐渡では流しのタクシーがいないらしい。おまけに、夜中などに人気のない浜からタクシーを呼んだとしても断られるという。

 真野の浜に到着するとおじさんは「アンタが女だったら、ここでのキャンプは絶対勧めないんだがな」などと言ってきた。何か訳でもあるのだろうか。
 それよりコンビニがどこかの方が気になる。そのコンビニは浜から少し距離があるというので、コンビニまで連れてって下さいと図々しくお願いした。

 コンビ二に向かう途中でおじさんは「この辺が曽我ひとみさんの家だよ」と窓の外を指差して言った。さらに近くの交番や民宿の場所なども教えてくれる。
 これを聞いた時におじさんが「女なら勧めないと」言ったて事や、夜にタクシーが断られる理由が分かった。そうだ。この島ではかつて拉致があったんだ。

 私はその事をすっかり忘れていた。そうなると、海岸で一人キャンプする奴は珍しいというか、無謀なことにでもなるのだろうか。とにかく、コンビニに着いたのでおじさんに礼を告げて別れた。

 酒を買って真野の浜に戻ると、さっき別れたばかりのおじさんが再び車で現れた。何か忘れ物でもしたかなと思うと、おじさんは「本当にここでいいのかと」と尋ねてくる。加えて、もし金があるのなら、民宿に泊まった方がいいとまで言ってきた。

 過去に拉致があった島なので心配性になるのは分かるが、それは昔のことで、今は危険じゃないだろう。私が大丈夫だと告げると、おじさんは心配そうな顔で去っていった。
 それから浜を見渡してみたが、これといってピンとくるキャンプポイントがない。しかも、おじさんに変な事も言われたので、ここでキャンプする気が失せた。そこで、さらに1時間歩き、先にあった佐和田海岸を今夜の寝場所にした。

 翌朝、気になっていた事をはっきりさせようと、海岸を散歩していた人に尋ねてみた。それは、この島のどこで拉致があったのかということ。聞いてみるとその場所はなんと、昨日私がキャンプしようとしていた真野の浜だった。

 おじさんが過剰に心配したわけである。だが、考えてみればあの浜を勧めてきたのはおじさんだ。酒を買えたのはありがたかったが、そっちの方はありがた迷惑である。とにかく、これからはキャンプ地選びは慎重にした方がよさそうだ。

[この日の写真]




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