コーヒーを探しに・後編 (バンメトート) 2009年7月15日〜17日


 バンメトートで安宿の情報の他に知っていたのは、チュングエンコーヒー村とエデ族が暮らすアコドン村という2つの観光ポイントがあるということ。
 しかし、それがどこにあるかは分からない。とにかく情報収集だと、昨日歩いてきた時に見かけた一番栄えてるエリアに向かった。

 両替のため寄った銀行は英語が通じなかったが、近くにあった証券会社で英語が話せる女の係員がいた。目的地の2つはどちらも観光地として有名らしく、彼女もすぐに理解してくれ、おまけに電話でタクシーまで呼んでくれた。

 明日はフエに移動するのでバスターミナルがどこにあるか聞いてみたが、彼女の答えは「ない」の一言。
 フエ行きの直通バスがないのなら分かるが、バスターミナルがないのはおかしい。しかし、何度聞いてみても答えは同じ。代わりに近郊にある観光地のダラットの素晴らしさを説明された。

 タクシーに乗って向かったチュングエンコーヒー村は、宿泊している宿から1kmも離れてなかった。知っていれば歩いて行けたものを、わざわざ遠くまで歩いた距離をタクシーで戻った事になってしまった。
 ユニークなデザインをしたコーヒー村には、収穫に使用していたと思われる道具が展示され、この時はべトナムの国営テレビ局であるVTV1が取材をしていた。

 その風景を物珍しそうに眺めていると、ディレクターから展示物を眺めてるエキストラで参加してくれと頼まれた。承諾してその役目を務めてると、インタビューも受けさてくれという話に。面白そうなので了解すると、ディレクターは質問を始めた。

『ここに来た気分は?』
「気分と聞かれても分からないな。タヌキコーヒーを探しに来たんだよ」
『この道具を見てどう思う?』
「どう思うも何も、これが何の道具なのかが分からない」

 何度かニュアンスを変えて色々と質問されたのだが、私が分からないを連発しているとディレクターは困ったのか、途中でもういいやとインタビューを止めた。彼が望んでいるやり取りにはまるでならなかったのだろう。

 コーヒー村にはカフェもあったのでコーヒーを飲むことは出来たが、なぜか肝心のコーヒー豆は売ってなかった。村といってもここに農園があるわけではないので、タヌキコーヒーの情報もまったく得れない。ならばカフェのメニューにないかと探したがそこにもない。

 どうせだからと2万ドンのドリップ式コーヒーを飲んでみたが、ストレートのそのコーヒーは味がキツ過ぎて苦いだけ。ミルクを入れてみれば甘すぎるといった代物で、値段の割には大した感動もなかった。

 もう一つの目的地であるエデ族の住むアコドン村は、タクシーの運ちゃんから歩いて2kmくらいの場所と聞いていたので、道を尋ねながら歩き回って見つけ出した。
 村には横幅が狭く奥行きのある高床式の家が並んでいた。観光地化されてると思ったがそんな雰囲気はちっともない。観光客はおろか村人の姿もなく、代わりに見たのはうろつく何匹もの野良犬だった。

 ここに来た目的は、米とヌカ、イーストから作るルウカンという民族酒を買うため。村の中にその酒を売る家が一軒あったのだが、酒は全部壷売りで一番小さいのでもかなりデカく、とても一人では飲みきれる量ではない。

 ペットボトルを出してジェスチャーで少しだけ売ってくれと頼んだが、壷で買えとまったく相手にしてくれなかった。ならば近くのレストランで飲めないかと探したが、どこにも置いてなく、ルウカンは諦めるしかなかった。

 町にはチュングエン社の直売所が数軒あり、何種類ものコーヒー豆を売っていたが、市販されてるタヌキコーヒーがない。本物のタヌキコーヒーがないのは分かるが、味を似せて作られた商品さえ見つからないとは。
 民族酒のルウカンもなく、タヌキコーヒーもない。それどころか、安宿や目的の観光地を探すだけでえらい労力だった。




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