コーヒーを探しに・前編 (バンメトート) 2009年7月15日〜17日


 世界中のコーヒー通が「死ぬまでに一度は飲んでみたい」と絶賛する世界三大コーヒー。その3つとは、アフリカのモンキーコーヒー、インドネシアのイタチコーヒー、そしてベトナムのタヌキコーヒーである。

 どれも動物の名前が付くのには共通する理由がある。それはコーヒー豆がそのウンコから採られるということだ。
 そんなものが本当に美味なのかは知らないが、一説によれば、動物腸内の消化酵素の働きや腸内細菌による発酵が、コーヒー豆に独特の香味が加えるのだとか。

 三大コーヒーは希少価値があるので、世界中のコーヒー業者が狙って買い付け極めて高額で取引されるという。その為、ベトナムではタヌキコーヒーを一般人が目にすることは殆どないので、今では伝説のコーヒーとなっている。

 本物を買うのは極めて困難だが、味を似せて再現したものならベトナムの大手コーヒー会社であるチュングエン社が発売している。これならホーチミンの市場でも売ってるし、日本でもネット通販で簡単に買うことが出来る。

 そのチュングエン社があるのがバンメトートという町だった。「もしかしたら本物が」という僅かな可能性に賭け、私はタヌキコーヒーを探しにホーチミン市外のミエンタイ・バスターミナルからバンメトートと向かうことにした。

 コーヒー産地なので緑の多い田舎かと想像していたが、バンメトートは大きな町だった。到着したのはバスターミナルではなく、バスが1台停まれるだけの発着所。
 地図を持ってないので右も左も分からない。僅かな情報は安宿がグエンタットタイン通りにあるということだけ。コーヒーよりもまずは宿を探さねばと何度も道を尋ね、どうにかグエンタットタイン通りを見つけた。

 しかし、通りは間違ってないのだが、歩いても一向に宿らしきものが見当たらない。とにかく進んでいくとCOOPマートという大型スーパーがあり、その周辺に宿らしき看板がある建物が何軒もあった。しかし看板には「HOTEL」という文字が見当たらない。

 おかしいなと疑問を抱いている時に、ある重要な事を思い出した。ベトナムでは安宿のことを「Nha Nghi」ということを。
 看板をもう一度よく見れば、どれにもその文字が見えるじゃないか。この事を思い出さなければ、危なくどこまでも行き過ぎるところだった。そのエリアで3ドルの安宿を見つけ、ようやく寝場所を確保することが出来た。

 安宿の部屋にはテレビがあったので酒を飲みながら観ていると、なんと「アルプスの少女ハイジ」や「ワンピース」といったアニメ、ベトナム語に吹き替えされたNHKのドラマに徳永英明のPVなどがやっていた。これを見た時は、まるでタヌキに化かされたような奇妙な感覚に囚われた。 (後編に続く)




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