少しの油断も出来ない (ジャナクプル) 2003年5月14日〜17日


 ネパールで唯一鉄道の駅があるジャナクプル。インドとの国境に面しているせいか、日本人に似たネパール人は少なく、彫りの深いインド人顔が多く目に付いた。街の雰囲気も穏やかさがなく忙しい。まるでインドに戻ったような感じがした。

 この町に来た目的は、有名なミティラーアートを見るため。これはこの地方独特の民俗芸術で、平面的な素朴なラインと繊細なカラーのタッチが象徴的な絵画である。
 田舎道を歩きながら、アートが壁画に描かれているという集落を目指した。道中にあった溜池の中では、子供達が水牛に跨って遊んでいた。

 ミティラーアートが描かれている集落は小規模なものだった。褐色の土壁に書かれた絵のモチーフは主に動物と人、生活に関するもので、太陽や月を主にした幾何学模様なども描かれていた。
 じっくりと絵を見ていたかったが、小さな集落で外人が一人うろついているのは怪しまれそうだったの、一通り見てその場を去った。

 カトマンドゥからジャナクプルまでは深夜バスで移動してきた。そのバスはおんぼろで隙間風がひどかったので、寒くて夜中に何度も起きた。
 その寒さで腹が下ったのか、もしくは食事にあたったか、今日はひどい下痢。体もだるく食欲もなかったので、早く宿に戻って休む事にした。

 宿の横にはラーマヤナの物語の舞台にもなっていて、シータ皇女を祭ったというヒンドゥー教のジャナキー寺院があった。寺院の作りもムガール様式でインドっぽく、暑い日ざしと重なってネパールにいる事を忘れるくらいだった。

 ジャナキー寺院は聖地の1つなのか訪れる信者が多い。設置されているスピーカーからは、お経や音楽が大音量で流されていた。
 静かに部屋で休みたいが、音がうるさくてとても落ち着ける状況ではない。それどころか、その音に腹を刺激されたのか下痢が悪化し、トイレから離れることが出来なくなった。

 トイレで何度も体の水分を流してるので、異様に喉だけは渇く。何度もミネラル・ウォーターを買いに行ったのだが、同じ商品なのにこれが店によって料金が違う。
 いつもなら何でだと文句を言うところだが、今はそんなやり取りをしている時間も余裕もない。すぐ宿に戻ってトイレで落ち着きたいので、告げられた料金で買った。

 町を去る時にはバスの出発前に売店に寄り、ジュースとタバコを買った。店番をしていたのは10才位の子供。小銭がなかったので額の大きい紙幣で支払った。
 その時である。あどけない顔をしたこの子供は平気な顔をして、釣りの紙幣を渡す寸前に1枚抜いたのだ。

 この事をきっかけに、何日か溜まっていた私のストレスは爆発した。言うまでもなく、私の肛門と腹はすでに爆発している。子供には説教をして正確な釣りを支払わせた。仏の顔も3度までだ。
 買い物で少しでも気を緩めれば、その隙に金をぼろうとしてくる。腹の気を緩めれば、その際はもれそうになる。少しの油断も出来ないジャナクプルであった。




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