登れば下る (ヒレ) 2003年5月17日〜19日


 ジャナクプルから山腹の町ヒレまでは、3つのバスを乗り継いで10時間。相変わらずの下痢で体調は最悪の状態。長時間の移動中に便意を催しては困るので、食事や水分は必要最低限の量だけを口にしていた。
 最初にイタリ―行きのバスに乗った。窓からの景色は広大な田園風景。のんびりとした農作業を眺めていたので、腹の具合も落ち着いていた。

 次に乗ったダウン行きのバスでは、切符売りが私をネパール人と勘違いし、現地語で話し掛けてきた。腹も下痢の具合を忘れ、通常の状態と勘違いしているようだった。
 最後のヒレ行きのバスでは、切符売りと乗客がチケットの料金で揉めていた。同様に私の腹の中も揉め出したようで、何度も抱えている爆弾が爆発しそうになった。

 山頂にあるヒレの町は小さいが独特の雰囲気があった。この時はオフシーズンでトレッキングの観光客もいなく、町に居る外人は私1人だった。
 宿を探している時に横切った寺からは、お経や音楽が聞こえてきたので チェックインした後すぐに見に行ってみた。

 せまい寺の中で何人もの仏教層がお経を唱えている。そのお経に合わせ、ラッパやほら貝、太鼓などを使って音楽も奏でていた。
 寺の周りに集まる子供達が騒ぎ、大人たちも祈りに訪れていた。お経や演奏を時々ミスする僧や、居眠りをしている僧がいたのが人間臭くて面白かった。

 下痢は相変わらず続いてたが、宿の食堂で夕食をすることにした。わざわざこんな山の上の町まで来た理由は、ネパール自家製の酒「トゥンバ」を飲むためだった。
 トゥンバとは黍(キビ)の実を発行させて作るネパール製のビール。このトゥンバの本場がヒレなのだ。

 注文するとストローがささった木製のジョッキと、魔法瓶に入ったお湯が出てきた。飲み方はジョッキにお湯を注いで2〜3分待ち、実がぷくぷくと浮いてきたら飲む。
 飲み干しても同様にまたお湯を注げば、さらに数杯飲める。ビールといっても気の抜けたもので、味もワインに近いような気もした。

 この独特の酒とネパール料理で夕食。食事の間は酒の酔いもあり、下痢の事などはすっかり忘れていた。しかし、調子に乗って酒を飲みすぎた為に下痢が再発し、夜中に何度も用を足しにいく羽目になった。

 ジャナクプルから始まった下痢は、日毎に悪化しているようだった。このままだと水分を出し尽くしてミイラになり、寺にいる仏教層達にお経を唱えられてしまう。もう一度腹が下るその前に、山腹の町ヒレを下山することにした。




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