久々に味わうのどかさ (タンセン) 2003年4月16日〜18日


 バイワラから乗ったおんぼろバスは、段々畑や川、藁葺き屋根の民家などを横目に、舗装されてない峠道を走りながら、山腹の町タンセンへと向かって行った。
 乗客の顔が日本人に似ているので、まるで日本の田舎を走っている気分。ただ、バスに山羊が乗っていたのは、ネパールらしいところだった。

 タンセンに到着後、バスパークの真横にあった宿をあたってみた。部屋にバスルームはなかったが、窓から山腹の景色を一望出来る所が気に入り、この宿に泊まることにした。バスパークの横には商店も並んでいたので、食事や買い物にも便利だ。

 タンセンは標高1300mにあり、晴れた日にはここから、ダウラギリやアンナプルナ、マナスル、ガウリ・シャンカールといったヒマラヤの峰を見る事が出来る。
この町はまだ近代化したり都会化していないので、ネパールの文化や伝統が色濃く残っている。こういった所もタンセンの魅力だろう。

 石畳の坂道がある町では、山で暮らす人々の生活を所々で見ることができた。額に袋の柄をかけて、荷を背中に背負うようにして運ぶ人々。寺院の横の井戸では、女たちが水を汲んだり体を洗ったりしていた。

 ネパール人はインド人と比べると顔付きも声も話し方も優しい。この町もインドのようなしつこい客引きや物売りなどはまったくいなく、ルンビニと同様にのんびりと町を散策することが出来た。

 レストランに行ってタンセン名物のネワール料理も食べてみた。注文したセットは、あひるの肉(この時はビーフ)、ミックスカレー、ツカウニ(ヨーグルトを使ったじゃがいものアチャール)、チョウラ(干し飯)という品々。
 ほとんどのものが今まで食べたことのない味。ツカウニは酸味が凄く、好き嫌いのない私でも口に合わなかった。見た目がコーンフレークのようなチョウラも独特だった。

 翌日の午後、部屋で昼寝をしていて夕方目を覚ますと、空の雲行きが怪しくなっていた。しばらくすると雨が降り始め、雷も光りだした。インドでもよくあったが、雷は光るけど音がほとんど聞こえない。科学的に何か理由はあるのだろう。

 これも旅の間に何度もあったが、この時もちょうど停電していた。雷がフラッシュする度に、部屋の窓から灰色の空や山腹の町の景色が浮かび上がる。幻想的な空間にいるようで、しばらく見ていて飽きなかった。

 雨は上がったが停電はまだ続いていので、暇潰しに近くの店にチャイを飲みに行った。停電した町の店には蝋燭の明かりだけが点り、その明りの周りで人々は雑談していた。その中にまぎれてチャイを飲みながら、酔っ払いのおやじと談笑しながらひと時を楽しんだ。

 停電は直りそうにもなかったので蝋燭を買って部屋に戻り、その明かりの中でウイスキーで1杯やりながら物思いに耽った。雨上がりの夜空には満月も現れ、月明かりが差し込む部屋はクールなバーだった。

 独特なネワール料理や自然が溢れる静かな山の暮らし。何もない所だが、人々はのんびりと豊かに暮らしていた。この田舎町で新鮮な気分を再認識し、久々にのどかさに触れることが出来た。 




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