人はどこでも暮らせる (ニャウンシュエ) 2003年7月4日〜9日


 インレー湖は山々に囲まれた盆地湖。大きさは乾期でも東西6km、南北15kmもあり、湖にはいくつもの大きな浮島がある。
 湿原には高床式の水上集落があり、「湖の民」といわれるインダー族が住んでいる。この水上集落を見ようとインレー湖へのボート・トリップへ、同じ宿に泊まっていたドイツ人の男とイギリス人の女の子2人とで出掛けた。

 小型のスピード・ボートで運河を進みながらインレー湖と向かう。湖は広く浮島があるだけで岸は見えないが、しばらく進むと湖上には、片足漕ぎの奇習で有名なインダー族が操るカヌーが現れ始めた。
 彼らはカヌーの先端に片足で立ち、もう一方の足でオールを操りながら漁をする。こうすると両手が自由になるので漁の際に便利という理由で、このような漕ぎ方になったそうだ。

 しばらく進むと何台ものボートで埋め尽くされた、湖岸の水上マーケットに着いた。水上マーケットといってもバンコク近郊で有名なマーケットのように、ボートを浮かべて物の売り買いをやっているのではなかった。

 湖岸のマーケットという意味のようで、陸のほうには地元の人が利用するマーケットがあり、民芸品から食料まで様々なものが売られていた。ここでは頭に布を巻いたパオ族が多く目に付いた。

 インダー族が暮らす水上集落は高床式の家が立ち並び、村人がその間をボートで行き来していた。周りには水上農園も多くあり、トマトや唐辛子などを栽培している。
 湖上にあるガーぺ僧院も訪れた。ここには通称ジャンピング・キャットと言われる猫がいて、僧侶が上げた小さな輪をぴょんと飛び越える芸をする猫が沢山いた。

 インレー湖の水上集落を見て周ったこのボート・トリップ。人間は環境に応じて、どこでも暮らせるのだと実感した。
 ボートに乗りながら湖上の集落を移動するのは楽しかったが、いくつもの土産屋に連れて行かれたのは鬱陶しかった。

 翌日はボート・トリップで一緒だったドイツ人と共に、ニャウンシュエの近郊へミニ・トレッキングに出掛けた。ガイドはお喋りでサッカー狂の現地人。いくつかの僧院やパオ族の住む村などを巡りながら、のどかな景色の中をトレッキングして行った。

 訪れた僧院の一つに、洞穴の僧院というのもがあった。ガイドの話では、入口の横には修行する穴があり、今もその中には修行中の僧が入っているという。その修行僧は人に見られることを嫌うので、食事は地元の人がそっと差し入れるようだ。

 悟りの境地を求めて修行しているのだろうが、結局は現世から逃れて安住の地の中に隠れてるとしか思えない。穴に入って一人で瞑想に耽るよりも、人々に説法の一つでもした方がいいんじゃないか。凡人の私はそんな事を感じた。

 水上で暮らすインダー族や農耕民族のパオ族など、自給自足で自然と共に暮らす人々にとっては、軍事政権やインターネットの規制など、気にする事でもないのだろう。
 それぞれの民族の暮らし方や文化がいつまでも続く。そんな平和を、穴に篭る坊さんは願ってるのだろうか。それとも、ただ穴に引き籠って暮らしてるだけだろうか。




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