斡旋業者 (ジョグジャカルタ) 2007年4月14日〜17日


 ジャカルタから夜行列車に10時間揺られ、早朝にジョグジャカルタのトゥグ駅に到着すると、駅前にはタクシーやべチャ(自転車タクシー)の運転手たちが待ち構えていた。
 ジャカルタでもそうだったが、この客引きが意外としつこくない。ある程度断っていれば相手もすぐ諦める。これがインドなどになると相当しつこく、時には腕を掴まれて足を止められたりするくらいだ。

 1人だけホテルの客引きらしき若い男がずっとついてきた。男の名前はユダ。ユダといえばイエス・キリストに選ばれた十二使徒の一人で、裏切り者として名高い男。そのイメージがあるので、名前だけで胡散臭く感じてしまう。
 だが列車であまり眠れず疲れており、自分で宿を探し回るのも面倒だったので、ユダの知っている宿を見せてもらう事にした。

 まず行ったホテルは場所もよく綺麗だったが料金が少々高い。もう少し安い所はないかとユダに聞くと、路地の奥にあるロスメン(安宿)を紹介してくれた。下町のような場所にあるこのロスメンが気に入り、そこに泊まることにした。

 宿が決まると次にユダは、ボロブドゥールなどのツアーを勧めてきた。詳しく話を聞くと料金も悪くなかったので、これもお願いすることにした。普段ならこういった話は断るところだが、睡眠不足で思考回路が弱まって考えるのが面倒くさかった。

 20分程してユダはツアーのチケット用意して戻ってきた。そして今度は、自分が書いた絵の展示場が近くにあるから見に来ないかと勧めてきた。半分嘘だろうと思ったが、絵がどんなものなのか興味が沸いたので、勧めに応じて行ってみることにした。

 徒歩10分で着いた建物には店員のような男が2人いて、壁には色鮮やかな絵がたくさん飾られていた。絵はバティック・アートという、蝋を使って布に描かれたもの。布なので後ろから光を当てると色が際立って鮮やかになり、また違う趣になるという。

 ユダの書いたという絵はお面のような顔がいくつも書かれたもので、前衛的なアートだった。何を表現したのかと聞くと、心のいくつかの面を表現したと言う。
 誰もが言いそうな回答でどこまでが本当なのか分からなかったが、確かだったのは、要するにこれらを買わないかと言う事。最終的には料金表まで出してきて、ゆっくり選んでくれと言ってきた。

 絵の大きさには大小あり、料金も5万ルピアから50万ルピア位。最初は買うつもりなどまったくなかったのだが、見ているうちにこのバティック・アートが結構気に入ったので何枚か購入することにした。

 選んだ4枚の合計金額は42万ルピア。もちろん最初から値切るつもりだったので交渉に入った。相手もなかなか値切らず30万ルピアで交渉成立。これが高いのか安いのかは分からなかったが、気に入ったのでよしとした。

 バティック・アートの購入が済んで別れ際になると、ユダは売春婦の斡旋をしてきた。料金は2時間で30万ルピアだという。今晩あたりどうだと勧めてくるので、必要になったら頼むと断って、ひとまずユダとは別れた。

 町を歩いている時も、同様の勧めをしてくる奴等が大勢いた。中には日本語がペラペラな奴もいて驚いた程だ。全員勧めてくるのが、決まってボロブドゥールなどのツアー、バティック・アート、そして売春婦。どこの国でもそうだが、このジョグジャカルタにも大勢の何でも屋が町の中を徘徊していた。

 一人旅の夜といえば、酒を飲むことくらいしかやる事がない。他にやることがあるとすれば、あっちの方である。斡旋の使徒であるユダに、ジョグジャカルタのマリア様を紹介してもらったかどうかは、想像にお任せする。




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