バックウォーター・クルーズ (アレッピー) 2003年3月3日


 ケララ州の海岸線には無数の川と入り江が、複雑なデルタ地帯を形成している。この辺りにはバックウォーター(水郷地帯)といわれるエリアがあり、川や湖と共に生活する人が多く住んでいる。

 その中心地であるアレッピーには、椰子の林の中に無数の細い水路があり、そこをボートでクルージングする事が出来る。インドのベニスとも称されるこのアレッピ−にやって来る観光客の大半は、このクルージングが目的だろう。

 私はアレッピーからクイロンまでの87kmを8時間かけて、バックウォーターを楽しみながら小型船で移動することにした。
 クルーズ中の川はそうではなかったが、出発地点であるアレッピ−の川の色はどす黒く、まるでどぶのようだったのが印象的だった。

 このボート・ツアーでは、運河沿いに暮らす人々の生活も眺める事が出来た。畦道から元気に手を振ってくる老若男女。どこまでも続く椰子の木。全てがすごく異国に見えて、どの景色も新鮮だった。

 コーチンで見たチャイニーズ・フィッシング・ネットをここでも頻繁に見かけたが、漁をしている様子はなく、昼間は男たちは椰子の木の日陰でトランプをしていた。漁は早朝で既に終わったのか、もしくは夕方から始まるのだろうか。

 ペンをくれと必死になって船を追いかけてくる子供たちも多くいた。船に乗っていた何人かの西洋人たちは、子供たちにペンを投げ与えていた。
 物を与えたい気持ちは分からなくもないが、船の上から投げつけるそのやり方は、横で見ていてかなり不快なものだった。

 アレッピー周辺には数多くの寺院・教会が点在するので、クルーズ中にもいくつかの教会を目にした。緑一色の椰子の木の間に建つ真っ白い教会を見ていると、ここがインドである事を忘れるかのようだった。

 この時は雲が多く、強い日差しが隠れていたので、運河を走る船上には小気味良い風が流れていた。南国の雰囲気が溢れる周りの景色も見事にマッチし、とても穏やかで開放的な気分に浸れたクルーズだった。

 このバックウォーターでは川が道路になり、船が車のようなものに相当するのだろう。川や湖と共に生活する環境も楽しそうだ。人間はどんな環境にも合わせて暮らしていける。つくづくその事を実感させられた。




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