猛暑ゆえに (トリヴァンドラム) 2003年3月3日〜4日


 暑い日差しが照りつけ南国を感じさせるトリヴァンドラム。この町にはビーチもあり、近隣にはインド最南端の町であるカニャークマリもある。そこへのアクセスポイントになっているので、多くの人や交通が往来している。ただでさえ暑い上にその忙しさが加わるので、なおさら気温が増しているようだった。

 町には有名なパトマナーバスワーミ寺院があり、多くの者が訪れて周辺は賑わっていた。本堂へ続く参道の入口にあった小さな寺の中では、人々が熱心に祈っていた。
 驚いたのは誰もが椰子の実を持っていたこと。何のために持っているのかと人々の行動を観察してみると、彼らはその実を壁に投げつけて割っている。

 壁はその専用であるらしく、周りには割れた椰子の実が散乱していた。宗教的に一体何の意味があるのかよく分からないが、彼らにとっては重要な儀式の一つなのだろう。
 実を投げつけている時の人々の表情は、拝んでいる時の穏やかさとはまるで違う。厳粛な雰囲気はなく、楽しんでいるような感すらあった。意味は分からないが面白そうなので、私も椰子の実をひとつ買って直球のストライクを投げつけといた。

 パトマナーバスワーミ寺院の本堂は、信者以外の入場は許されてない。入口から中を覗き込んでいると、数人の男たちが上半身裸でやって来て中へ入って行った。
 後にやって来た小学生男子の一団も、同様に上半身は裸。服を着て寺院に入ることは許されてないのだろうか。今までいくつも寺院を訪れたが、こんな規則は初めて見た。

 若い娘の団体が裸で参拝に訪れるなら、一日中そこにいても飽きなかっただろう。しかし、むさくるしい男の裸を見ていてもさらに暑くなるだけだ。女の団体がやって来る気配はなかったので、涼しさを求めその場を去った。

 強い日差しの下では、肌がジリジリと焼けてるのが実感できるくらい。路上で果物や野菜を売る女たちも日傘を差していた。日除けもなしに一日中座っているのは、さすがに地元の人でも参るのだろう。売っている食物は暑さで腐ってしまわないのかと、観光客の私は勝手に心配した。

 夜は宿の近くのバーで、暑い日差しの中を歩き回った疲れを癒した。インドを旅してると多いのが、店員や客などにジロジロ見られたり話し掛けられたりすること。
 外国を訪れている観光客としては、こういう状況が身に降りかかるのは仕方ない。だが、疲れていたりイライラしている時は、ほっといてくれという気持ちになる。

 この店でも案の定、店員の若い奴にジロジロ見られた。ただ見られるだけならいいが、その顔には少し人をバカにしたような笑いが含まれていた。黙って見過ごせばいいがその表情が癪に触ったので、思わず「何だよ」と文句を言ってしまった。

 すると店員はフレンドリーな笑顔で、私のズボンのケツが破れている事を教えてくれた。触ってみると確かに破れている。それもかなり大きく。いつ破れたのかは知る由もない。確かなのは、一日中パンツを見せながら町を歩いていたということだ。
 私は自分の失態に大笑いした。これをきっかけに、店員に対してのそれまでの緊張の糸は解れた。ズボンのケツは言うまでもなくすでに解れている。

 店員は話好きの商売上手な奴で、あの酒はいくらだとか、あれが美味いとか、ありがた迷惑に教えてくれた。日本についても興味があるのか、様々な質問を浴びせてきた。
 一人で飲む酒に退屈さを感じていたので、たわいない会話が出来たのは良かった。それよりも重要な事を教えてくれた事に感謝した。

 とにかく南インドのトリヴァンドラムは暑い所だ。男や子供たちは上半身裸で寺参りし、路上の売り子たちは日傘を差しながら商売している。私のズボンも風を通すために破れている。それだけ暑い所なのだ。




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