インドの谷間 (バンガロール) 2003年2月25日〜27日


 インドのシリコン・バレーと呼ばれるバンガロール。IT技術の取り込みが進んでいて、世界に向けてのソフトを開発している所でもある。
 その影響もあるためか、町は近代化していてすっかり西洋的だ。ジーパンを穿いているインド人を見たのも、この町だけではないかと言える。

 MGロードがある近代的なエリアは、もはや西洋と何ら変わりない。立ち並ぶビルの中に洒落た店が多くあり、歩いている人々の身なりも小奇麗だった。
 泊まっていた宿があるエリアも栄えてはいたが、こちらはアジアらしさが充満。市場周辺には活気やエネルギーが溢れ、これぞインドといったパワーが漲っていた。

 インドは年間映画制作本数が世界一で、観客総数も世界一多い映画大国。その制作の中心地がムンバイで、旧名ボンベイとアメリカのハリウッドをもじって、「ボリウッド・フィルム」と呼ばれている。
 そんな映画が大衆の娯楽だということを象徴するように、バンガロール町では巨大な映画宣伝の看板が、多くのビルに掲げられていた。

 既にボリウッド映画は数回見ていたので、ここでは気分転換にハリウッド映画を見た。驚いたのは客の大半の若者が、字幕なしの英語の映画を理解していた事。英語の理解力や学習もこの土地では進んでるようだ。

 夜に足を運んだ酒場は小さい定食屋のような広さで、テーブルと椅子があるだけの簡素な店作り。そこでボーイとして働いていたのは10歳位の子供。しばらく飲んでいると店が混み合ってきたため、地元のオヤジと相席になった。

 日本人の私が珍しかったのか、しばらくするとオヤジは話し掛けてきた。しかし、言葉は南インドの言語のカルナタ語なので、何を言っているのかはさっぱり分からない。
 素面なら状況をまともに処理するところだが、こちらも酔っ払い。話には適当に相槌を打ち、言いたい事は日本語で返しながら奇妙な会話を交わした。

 何杯か飲みながらそんな会話をしていると、オヤジは名刺を出してきた。それを見せながら外の方を指差しているので、何かを勧めていたのだろう。土産屋なのか、もしくは何かの金目当てに連れ出したいのか。

 いずれにしてもすでに酔った私を相手に現地語で話されても、なんのこっちゃさっぱり分からない。ただ勝手に何を言っているのか想像して楽しみ、相手してもらったお礼にビールをおごった。

 酔い心地で店を後にして宿へと歩くと、ガキが寄って来て「アンタはアメリカ人か」と質問してきた。真面目な顔で聞かれたこの質問は、素面に戻る程の驚きだった。
 私はアメリカ人ではなく日本人だ。そう説明してあげるのが一般的な答えだろう。だが私は既に酔っ払い。いたずら心が働き、その質問に対し「そうだ」と返事をした。

 このガキは私の顔を見て、アメリカ人とはこういう顔なのかと記憶しただろう。今ではアジア顔した観光客を見ては、「アンタはアメリカ人だろ」と、得意げに言っているかもしれない。真実を知る日はいつか来る。その時に初めて学ぶのである。

 インドのシリコン・バレーであるバンガロール。近代化が進んで西洋的になっているが、町のバレー(谷間)に行けば、まだまだそこにはインドがしっかりとあるようだ。




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