オン・ザ・ロック (ハンピ) 2003年2月19日〜23日


 バスの中からこの土地を最初に見た時は、タイムスリップしたのかと錯覚した。もしくは火星にでもやって来たのかと思うほどのインパクトだった。
 そのハンピの町には、どこから落ちてきたのか、どこから転がってきたのかと思わせる巨石や岩が数え切れない程あった。

 そんな景色の中にココナッツやバナナの畑が広がり、近郊には世界遺産の遺跡群が至る所に点在している。それ以外は何もない。岩だらけの景色を眺めていると、自然とは本来はこういう姿なのだろうと強く感じる。

 町の中心部はそれ程広くないので歩いても回れてしまう。川ではおわんのような形をした渡し舟が使われていた。10人ほど乗れる広さで、自転車を乗せて渡る人もいた。
 巨人の手によって造られたような、巨石が積み重なるマタンガ山もあった。山頂からは川やココナッツ畑、点在する遺跡群なども見れたが、やはり目に付くのは岩。

 泊まっていた宿には、ロック・クライミングの目的で来た日本人が二人いた。ハンピには巨石が多くあるので、ロック・クライミングで有名なのだという。これだけ岩が転がっていれば、登るのが好きな奴にはたまらないのだろう。

 約40のヒンドゥー寺院があるハンピ遺跡は、広範囲に点在している。それらを見るのにツアーや車を利用してしまったら、道中が全然楽しめない。
 そこで遺跡へはレンタル自転車で出掛けた。ここでレンタルしたのは、カジュラホで借りたような新聞屋自転車ではなく、ギアはないがマウンテンバイクだった。

 遺跡は700年ほど前に都市として栄えていたもので、かつての城や寺、会議場、浴場などがあった。ほとんど崩れかけてしまっていて、それが何だったのか見当もつかない建物も多かった。

 本当にどこへ行っても石だらけなので、昔の遺跡にはあまり古臭さが感じらず、今もなお人々に使われているかのように思える。そんな中を自転車で巡っていくのは不思議な気分だった。

 照りつける太陽の日差しが凄まじいので、何度も遺跡の屋根の下や巨石の木陰で涼を取った。地元の人々もそんな風にして涼んでいる姿をよく目にした。

 遺跡観光のメインにはヴィッターラ寺院の石造のラタ(山車)があるが、一番印象的だったのはアンダーグランド・キャッスルという地底城だ。これはピラミッドを逆さにしたような構造で地下5階まであり、階を降りるごとに広さが狭くなっていた。
 地下は猛暑の地上とは大違いで、涼しかったが黴臭くもあった。暑さをしのぐのに、昔の人々は地底城の発想をしたのかもしれない。

 人類もいつかは岩だらけの火星に移住するのだろう。それは未来の話なので経験する事は出来ない。だが、似たような環境の土地に足を踏み入れたのは、私の中では新天地の発見であった。
 巨石と岩が転がる火星のようなハンピ。この土地で飲むウイスキーのロックも実に格別で、飲みすぎた私の脳は火星へと飛んでいった。




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