酒にまつわるエトセトラ (ジャイプル) 2003年1月21日〜23日


 デリーに4日ほど滞在した後、次の目的地であるラジャスタン州のジャイプルへと発った。ニューデリーからジャイプルまでは列車で7時間。相席になったのはインド人とイギリス人の青年、それにイスラエル人の女の子2人。自己紹介から始まった会話はしだいに弾み、道中は退屈せずに済んだ。

 相席のインド人が近くの席にいたオヤジに声を掛け、さらに話し相手が加わった。このオヤジは顔は強面だがよく喋るタイプ。聞き取りにくい英語なので何を言っているのか半分以上は分からなかったが、インドと日本は仲間だという事だけは理解できた。

 ご機嫌になったオヤジは、隠し持っていたウイスキーを出して私に一杯ご馳走してくれた。強面なのでウイスキーは勢い良く喉に流し込むのかと思ったが、周りを気にしながら隠れるようにちびちび飲んでいる。
 インドでは公の場で酒を飲むことはあまりよくない事なのか。いろんなギャップが面白かったオヤジだった。

 ジャィプルに到着して駅前で待っていたのは、サイクルリキシャーの執拗な客引き。その猛烈な攻撃を振り払いながら、下調べ済みの安宿を目指した。
 駅から数分にあるその宿が見つからないので、路地にたむろしていた集団に聞いてみた。このような時は地元の人間に聞くのが一番。宿の名前を告げれば大抵は指差しで方向を教えてくれるし、英語が話せる者も大概はいる。

 これで宿は簡単に見つかるだろうと思ったが、それは大きな誤算だった。やけに陽気な集団がたむろしていたのはよく見ると酒場。おまけに運が悪い事に、しつこく説明してくる男が見るからに酔っ払いだった。

「俺が連れてってやるからこれに乗れ。他にもっといい宿があるからそっちにしろ」
 その酔っ払いはリキシャの運転手で、宿の紹介料が欲しいのか別の宿を必死に勧めてくる。こういう勧めにろくな事はないので、礼だけ告げてその場を去った。だが、酔っ払いは仲間を乗せてリキシャで追いかけてきて。とにかく俺のリキシャに乗れと喚いてきた。

 ほっといてくれと文句を言っても、酔っ払いに効き目は無い。おまけにそれが逆効果になり、さらに執拗に追いかけてきた。
 人込みに紛れて振り払おうと駅のターミナルに戻ったが、そこまでも追いかけてくる。さすがに腹が立ったので「いい加減にしろ」と激を飛ばした。
 だが相手は酔っ払い。アルコールを吸収しているだけに益々燃え上がり始め、さらなる罵声を喚き始めた。

「お前の後をつけて殺してやる、俺はそういう注射を持ってるんだぞ」
 何か言い返そうと思ったが、これ以上関わると碌な事にならない。怒りを抑えて駅の中へと立ち去ると、さすがにそこまでは追ってこなかった。
 頃合を計ってもう一度宿を探しに行こうと思ったが、あの酔っ払いにまた出くわしても面倒。そこで、今夜は駅の2階にあるリタイアリング・ルームに泊まることにした。

 インドの中でもラジャスタン州は、酒場が多くあるので簡単に酒にあり付ける。列車の中で会ったオヤジのようなタイプならいいが、あのリキシャ野郎のような酔っ払いには会うのはごめんだ。
 この国に滞在して5日目。早くもインド人の親切さや厚かましさ、エネルギーなどを十二分に感じている。




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