知らぬ間に参加したツアー (鳳凰) 2009年8月17日〜19日


 川沿いに古い家々が立ち並ぶ古都。その風景写真を旅の出発前に日本で見た時に一目惚れをし、本物を目にしたくてここまでやって来た。
 それは湖南省にある鳳凰という古都。写真以上の素晴らしい眺めを見れたのは確かだが、そこにはかなり観光客が多く、人を避けながら歩くといった状況だった。

 町の中心には古風な趣の屋根付の虹橋が架かり、両岸の石畳の通りには土産店やレストランがいくつも並んでいた。
 ミャオ族の民族酒や衣装などを扱う店も多くあった。ライトアップされた夜の景色もまた一際良かったが、麗江と同じように夜のレストランやバーからは生バンドの音楽が流れてきて、その騒音で情緒が掻き消されていた。

 鳳凰の情報は全くなかったので、町の旅行店でめぼしい観光地を調べてみた。どこの店でも目に付いたのが、烏龍山景区、老洞古苗寨、飛水谷風景区の滝、地潭江景区の吊橋の四つ。
 その写真の中には、やたらと横に長いテーブルで観光客が食事をしてるものがあり、そこがミャオ族の村である老洞古苗寨ということが分かった。

 ツアー料金を聞いてみると、烏龍山景区とセットで168元。目的は苗寨だけなのでこれでは料金は高い。自力で行けないか調べてみると、苗寨は麻沖の近くだということが分かった。

 翌朝の虹橋東通りは、出発前のツアーバスがごった返して渋滞していた。その中に老洞経由の麻沖行きのバスがあったので、それに乗り込んで出発を待っていた。
 乗客は私一人だったのだがしばらくすると、「烏龍山風景区」という旗を持ったガイドに引きつられた中国人観光客の一団が乗り込んできて、バスはあっという間に満席になった。

 何でツアー客が公共バスに乗ってくるのか疑問に思った。彼らは格安ツアーなので、移動だけ公共バスを利用するのだろうか。とにかく、あまり気にせず出発を待った。
 通常公共バスには切符売りのおばちゃんがいるが、その姿もない。おまけに座席が一つ足りないのか、1人の若い女が運転手の後ろで箱の上に座っている。

 バスが走り始めると、旗を持っていたオッチャンがメガホンを片手に話し始めた。公共バスなのに車内はまるでツアーバスのよう。オッチャンは漢語とミャオ語の違いを説明したり、ミャオ族の民謡なども歌い始めてる。拍手をする乗客たちも段々と盛り上がっている。何だか嫌な予感がした。

 山をどんどん上がっていったバスは、烏龍山風景区に入っていくではないか。そこでバスは停車して、チケットの確認をする係員が乗ってきた。嫌な予感は的中した。そう、このバスは公共バスではなく、ツアーバスだったのだ。

 一人チケットを持っていなかった私はここで100元を徴収され、いつの間にかツアーの一員になってしまった。ガイドのオッチャンも私が紛れ込んでいたことに、ここで気が付いたようだ。烏龍山は必要じゃなかったが、苗寨には行けるので仕方ない。

 クソ暑い中で烏龍山を歩いてる途中で休憩になると、ガイドが「我的〜31192号」と書いた紙を見せてきた。ツアー客のID番号が必要なのかと思い、自分のパスポート番号をその紙に書くと、見慣れない番号なのかガイドは不思議がっている。

 私は日本人だと説明するとガイドは納得していたが、その紙を休憩所に置いたまま先へ歩いて行った。何の為に聞いたんだと不思議に思ったが、後にガイドが「31192号は休憩」とか「31192は号出発」と言ってた事で理由が分かった。紙に書いていた31192号とは、このツアー団体の番号だったのだ。

 烏龍山巡りを終えると、景区の食事場で昼飯になった。そこにあったのは普通のテーブルと椅子。私は苗寨の長テーブルで飯を食いたかったのに、急遽ツアーに参加してしまったので、その計画も丸潰れだ。

 食事代はツアー料金に含まれており、一行の中国人たちと同じテーブルで飯を食うことになった。各テーブルにボールに盛られた米とおかずが5皿が用意され、同テーブルの皆で摘むといったシステムだった。他の者の米をよそってあげたり、もっと食べなと勧めてきたり、日本と変わらぬほのぼのさがそこにはあった。

 烏龍山の一件で私を日本人だと知ったガイドは、ツアー客に全員にそれを言いふらしていた。それは悪意があるのではなく、ただ珍しいという理由からだ。それを説明するように、その後は特に気を使ってくれて、「出発するぞ」とか「こっちだ」などと、個人的に声を掛けてくれた。

 その後に訪れた苗寨はこじんまりした村で、安順から訪れたプイ族の村のように家は石造りだった。村を一通り回って見たが、長テーブルで飯を食う場所はどこにもなかった。
 代わりにここでは民族衣装を着た女たちによるショーを見ることが出来た。太鼓の演奏や唄、竹飛びともいえる竹を使ったゴム飛びのような遊び、火を食べるオヤジのパフォーマンスなどもあり、存分にショーを楽しむことができた。

 烏龍山と苗寨でツアーは終了かと思ったが、鳳凰に戻ってから川でのボート遊覧がおまけにあった。そのボートでもガイドのオッチャンは私が日本人であることを、他のツアー客に珍しいだろうと話していた。

 それを知った一人のおじさんが英語で話し掛けてきた。中国にあるセイコーの工場で働いているおじさんは、このツアーにいくら払ったのかを聞いてきた。私が払ったのは100元だったがおじさんは120元だったようで、その事についてガイドに文句を言っていた。

 急遽参加してしまったツアーの為、長テーブルで飯を食うという当初の目的は果たせなかったが、代わりに中国人たちと共に飯を味わえたり、ミャオ族の村でショーを楽しめたりと、蓋を開けてみれば悪くはないツアー内容だった。
 さらに私のツアー料金は旅行店を通してないので、一人だけ安く参加出来たのも、不幸中の幸いともいえるものだった。




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