信用ならない村 (凱裏) 2009年8月15日〜17日


 安順から次に向かったのは、貴州省の南東部に位置する黔東南ミャオ族トン族自治県。その州都である凱裏市の見所は州民族博物館ぐらいで、メインは州内に点在する少数民族の村。
 このメインが民族の村というのが気に入り、観光地化されてないローカルなエリアを味わえるだろうと足を運んだ。

 一点だけ気になったのは、観光開発された大きな村を除き、一般の少数民族の村は突然訪ねても村内へ入れてもらえないということ。
 どこが大きな村なのか小さい村なのかは分からない。そこでメジャーだと思われるミャオ族の南花村を訪れてみることにした。

 田舎を想像していた凱裏の町だったが、市の中心はかなり栄えていた。町には今まであまり見掛けなかった本屋が多くあり、路上にはゴミもなく全体的に綺麗。
 通りで商売する女たちは、頭に白い手拭を巻いた者が多く、商売の傍ら編み物をしていた。これも今まであまり見掛けなかったが、臭豆腐を売る店が屋台に増えた。その為に町を歩いていると、あちこちからその臭いがした。

 町の中心である大十字のロータリー近くには、和服姿の女が描かれた看板のある大型ホテルがあった。浴城とも書かれていたので、風呂があるのだろうか。とにかく、こんな所で日本的なものを目にするとは意外だった。

 宿泊していたバスターミナルの周辺は中心部とは対照的で、混沌とした無秩序的なエリア。この辺りにいた女たちは皆同じ髪型をしており、髪を束ねた部分に櫛と花をさしてるのが特徴的だった。

 屋台の食器にビニール袋が被せられていたのも印象的だった。客が食い終わったら新しいビニールと交換する。洗う手間を省いた知恵なのか、ただ単に水場がないだけなのか。どちらにせよ、食べてる側はあまりいい気分ではなかった。

 観光客があまり立ち寄らなそうなこの町で、バッグパックを背負った西洋人の女2人組がいた。ホテル探しに手こずっているようで、周辺をキョロキョロしながら歩いていた。
 その辺りにはいくつも安宿があったのだが、漢字が読めない彼女らには気付きようがない。中国語が話せなくても日本人の私たちは漢字が読めるので、中国旅行は比較的楽に出来る。改めて文字の持つ伝達力というものに関心した。

 目的地の南花村は凱裏からバスで1時間。周辺は山間に川が流れるのどかな田舎風景なのだが、大掛かりな道路拡張工事をしていたので、ほじくり返された道はガタゴトで凄い状態。

 狭い道をダンプがひっきりなしに走ってくるので、すれ違いで進めなくなることもしばしば。そんな道を走るバスのカーステからは「マイアヒー、マイアハッハー♪」などと歌うユーロ系の音楽が流れている。まったく雰囲気が丸潰れである。

 ユーロ・スターは南花村が終点じゃないので、途中下車する必要があった。どこで降りたらいいか分からないので、車窓から道標を注意深くチェックしてると、「南花村 1,5Km」と看板が見えた。

 しかし、そこには「信用村」という石碑が建っていたので、降りずにそのまま行き過ぎたのだが、そこがなんと南花村だったのだ。おかげでとんだ先まで行ってしまい、かなりの距離を戻る羽目になった。

 信用村との石碑があった南花村の入口まで戻った後、屋根付きの橋を渡って山を上がり、木造の家が並ぶ村へと入っていった。
 ミャオ族のシンボルなのか、または魔除の類なのか、玄関の上部に水牛の顔骨が飾る家などがあった。

 それと何を採る為の道具だろうか、柄が3mくらいある網も立て掛けられていた。民族衣装を着たミャオ族の女を見たかったが、そんな姿はどこにもない。そもそも見掛ける村人がごく僅か。皆農作業にでも出てしまってるのだろう。

 数軒の土産屋はあったが、昼飯を食いたのに飯屋がない。代わりにあった食料は、家や路上で干されているとうもろこしだけだった。
 信用できない余所者が村をうろついてるので、誰も顔を出してくれなかったのだろうか。そうだとしたら信用村という看板があるのに実は南花村という方が、私にはまったく信用出来ない話だった。




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