旅は思いつき (安順) 2009年8月13日〜15日


 当初の旅の計画では、昆明からは北上して成都や九寨溝などを訪れる予定でいた。しかし、麗江で訪れた玉龍雪山であまりの観光客の多さに辟易し、有名な観光地に行くのが嫌になってきた。
 九塞溝で見れるのは、棚田のようになった湖や青く光る湖など。それだったら玉龍雪山でも見たのでもう十分。

 壮大な景色や古い建築物よりも、見たいのは少数民族が暮らす村。中国全図を見てみると、昆明からバスで8時間くらいの場所に、鎮寧プイ族・ミャオ族自治県があった。
 鎮寧行きのバスはなかったがその近郊の安順行きがあったので、その町を訪れてみることにした。

 まったく情報なしでは困るので、日本語入力の出来ないネットカフェで情報収集した。日本語は読むことが出来るので、日本の検索サイトを2つ用意して必要な単語をローマ字で入力し、出てきたその漢字をコピーしてもう一つの検索窓に貼り付ける。

 これを繰り返して鎮寧や安順の情報を探したところ、その近郊には中国最大の滝である黄果樹瀑布や、石造りの民家が集うプイ族の石頭寨があることが分かった。

 昆明から走っていた高速道路や一般道は国道320号線と表示され、全長2800kmと出ていた。一体どこからどこまでなのかは知らないが相当長い国道だ。移動の後半では沙子インターから鎮勝高速で関嶺まで走って行った。

 この高速道路はかなり標高が高い位置にあり、そこから見える景色が何ともいえなくらい素晴らしかった。いくつも横並ぶ岩山が1列だけでなく後方に何列も続いており、木々がないその山々の表面には、苔のように緑が生えている。

 道路の反対側の急斜面下には川が流れ、緑の田園風景が広がっている。世界自然遺産といってもいいくらいの景色であった。それに、山の頂上部分によくこんな高速を作れたなと感心もした。

 田舎町を想像していた安順だが、到着してみるとそこそこ栄えた地方都市だった。町の中心には小山があり、その頂上には塔が建っていた。

 驚いたのは、それ程に都会でもないのに地下街があったこと。しかし、その地下街は壊れた壁の一部から水漏れがしていたのが、なんだか中国らしく思えた。道路の看板から察するに、近郊には城や墓、風景区などの観光ポイントもあるようだった。

 安順や鎮寧周辺では、「正宗柴草火胡辣椒」という唐辛子や、「波波糖」というお菓子が有名なようだ。それと犬肉を食わせるレストランが多く、この安順にも数軒あった。珍しいので食べてみたかったが、料金が40元と高かったので止めた。

 目的地であるプイ族の石頭寨はのどかな農村で、まさに石だけで作られた家が緑の景色に溶け込み、自然との調和が感じられた。
 期待していた衣装を着た者はほとんどいなく、ごく数人の婆さんが身に着けていただけ。たまたま別の集落で結婚式をやっていたので、そこでは民族衣装を着込んだ女たちを見ることができた。

 石頭寨はろうけつ染めの里としても有名らしく、村では染物をする女たちを多く見かけた。黒い液で布に線などを描いてるので、その染み出た液体が路上にこぼれ、あちこちが黒い水溜りになっていた。

 ろうけつ染街という通りもあったのだが、それはわずか20mたらずの通りで店も3軒しかなく、訪れていたのはごくわずかな中国人観光客だけ。観光地というよりもまさに素朴な農村。味わいたかったのはまさにこのローカルさだった。

 情報も僅かで地図もないまま訪れた安順やプイ族の石頭寨。予備知識がない方が見るもの全てが新鮮になる。やはり旅は思いつきの方が楽しい。




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