山奥での奇跡 (龍勝、三江) 2009年8月19日〜21日


 吉報として待っている昆明の国際郵政支局からはメールはなく、代わりに来たのは家族からのメールだった。
 その内容によると、日本から送ったカメラはその4日後には中国に着いてたのだが、税関でストップしているとのこと。そして同時に節約していたデジカメの電池も、龍勝で遂にバッテリーがストップした。

 昆明からここまでいくつかの町を訪れたが、必要であるデジカメ電池のCR−V3はどこにも売ってなかった。広州でカメラを受け取れる可能性はほぼゼロ。
 写真を撮れないのはつまらないので、仕方なくフィルムカメラを買って代用していくことを決心すれば、今度はフィルムカメラを売ってる店が龍勝の町に一軒もない。

 山中の町で物資の流通が少ないのは分かるが、一台もフィルムカメラが売ってないとはどういうことだ。携帯電話を売る店は腐るほどあるというのに。
 ここからは三江というトン族の自治県を日帰りで訪れる予定でいた。そこも山中の町ではあるが、ガイドブックにも載ってるややメジャー場所なので、フィルムカメラを売ってる店が一軒くらいあるだろう。そんな僅かな望みに掛けて龍勝から三江へと向かった。

 のどかな田舎町を想像していた三江には、10階建てのマンションがあったり建設中のもがあったりと、龍勝よりもすっと大きな町で栄えていた。
 バスの中から写真店を見かけたので到着後すぐに足を運ぶと、フィルムカメラどころか、なんとその店に探していたCR−V3が売っていた。それも充電器付きで。

 まさに奇跡だ。こんな山奥の町でこの電池を扱っているとは、トン族たちは偉い。充電が出来るので、これでもう電池の悩みからは解消される。
 新たな電池を入れて気分も一新し、さらにバスで30分走って目的地である程陽景区を訪れた。

 緑豊かな景色の中にある程陽景区は8つのトン族の村で構成されており、集落内にはトン族の代表的木造建築物である風雨橋と鼓楼がある。
 田園の中に点在する木造の家々には福招きや八方除けの御札が貼られており、人々がのどかに暮らしていた。鳳凰で訪れたミャオ族の村と同様に、この村の人々の顔も日本人と大差なかった。

 鼓楼前の広場では、毎日行われてるというトン族の民族ショーを見学。衣装に身を包んだ若い男女が踊りや歌、竹笛を使った演奏などを披露してくれた。
 ショーの見学は無料なのだが、終盤には見ている客に強引に酒を飲ませてチップを払わせるという、ぼったくり的な歓迎酒の振る舞いなどもあった。
 コントラストが見事な村の景色や色鮮やかな衣装のトン族たちに魅了され、心配の種がなくなった私は写真をバシバシ撮りまくった。

 龍勝近郊にも棚田や温泉といったいくつかの観光ポイントがあり、そのなかには「黄洛紅ヤオ寨」という龍脊棚田の山麓にあるヤオ族の村があった。
 通称長髪村と呼ばれるこの村には、140cm以上の長い髪を持つ女性が60人以上おり、それはギネス記録でもあるらしかった。棚田や温泉はともかく、この長髪村だけは見たかったので、次の町へ行く前の午前中を利用して観光した。

 村はこじんまりした川沿いの集落で、トン族の村にも似た木造の家々が建っていた。入口にあった村の歓迎看板には、長い髪を川で洗う女たちの写真が使われていた。
 これは夕方などに見れる観光客に人気のパフォーマンスであるようだ。村にいた女性たちの髪形は束ねた長髪が帽子のようになっており、不思議な魅力があった。

 村をうろついてると一人の婆さんから「10元くれたら、川で髪を洗って見せてやる」という提案をされた。若い娘ならまだしも、一人の婆さんのそんな姿を見ても何にも絵にならないので、その提案は丁重にお断りした。

 女性たちは一生に一度、成人になる18歳の時にしか髪を切らないようで、その時切った髪は束ねて地毛と共に結い上げてるそうだ。その髪なのか、婆さんが付け毛を櫛で梳かしている姿なども見かけた。

 トン族を見に訪れた三江で奇跡的にデジカメの電池が、それも充電器付きで売っていたので、長らく抱えていた心配の種がようやくなくなった。
 しかも、捨てずに取っていた今まで買った電池をよく見れば、なんとそれも充電式の電池。一つどころか一気に3つの電池が利用可能になったのだ。もはや、行方の分からなくなってる日本からのカメラの事など、もうどうでもよくなった。




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