ビザ取得に四苦八苦・後編 (麗江) 2009年8月6日〜12日


 月曜の朝一番に公安を訪れる前に、宿のおばちゃんに自分のパスポート番号や名前を書いた紙を渡しといた。この安宿には宿泊帳などなく、私の情報は何も記入されてなかったので、そうしないと公安から電話がいった時に私の事が分からないと思ったからだ。
 そして「公安から電話があったら、私がここに泊まってると話してくれ」と、おばちゃんに念を押してから、再度公安を訪れた。

 住所も電話番号も控えてきたし、渡されたメモ紙も見せた。ようやくビザが発給されるかと思いきや、まだ問題があるという。一体何が問題なのかを聞いていると、片言の日本語を話す係員は宿泊先に電話を掛けだした。
 この展開になることは想像していたので、事前に対応策をとってある。ところが私の考えていたことはまったく見当違いだった。

 必要なのは宿に泊まってる確認ではなく、宿のパソコンからオンラインで繋がる公安の記入フォームに、私の個人情報を入力しなければならなかったのだ。
 それも途中から英語で会話したから分かった事。何でそんな重要な事を最初に言わないんだ。片言の日本語で話してくるから、紛らわしくなったのだ。

 メモ紙に書かれていた内容はそういう事だったのだ。最初に泊まっていた宿の夫婦が他所へ行けといったのは、潜りでも何でもなく、そこにパソコンがなかったからだったのだ。
 新たに移動した宿ではチェックイン前にメモ紙を見せたのにも関わらず、パソコンもないくせに泊めていたとは。
 オンライン入力をしない限りビザは発給されない。その為、また宿の移動と公安の再訪が必要になった。

 荷をまとめてチェックアウトし、受付にパソコンがある宿に移動した。公安で渡されたメモ紙を見せると、受付のおやじは内容をすぐに理解。
 早速入力に取り掛かったのだが、どこに何を入力すればいいのかを、おやじはイマイチ分かってない。おそらくこの宿に外人が泊まることはなく、こんな作業もほとんどした事がないのだろう。

 入力画面を見ると必須事項の部分が青くなっていたので、私の方から「これはここで、それはここ」と指示しながら入力作業が始まった。しかし、おやじのキーボードを打つ手はぎこちなく、機械にも慣れていない様子。

 見かねた私はキーボードを貸してくれと、自分で入力することにした。漢字の変換はやり方が分からないのでそこはおやじに頼んだが、機械が苦手なのか面倒くさがってやらない。早く入力してくれと頼んでいると、そのうち現れた奥さんが代わることになった。
 まだ奥さんの方がパソコンに慣れてそうだと期待したが、入力に取り掛かるや否や、いきなり今まで苦心して入力した全て消してしまった。おやじより酷いではないか。

 そのせいで、また一からやり直しに。最初と同様に指示しながら入力して貰ったが、「ジェイガ(これ)」「ネイガ(あれ)」だけで会話している私の中国語では細かい事まで通じず、どうにも作業がスムーズには進まない。

 すると、業を煮やしたおやじが「俺が公安に行って直接話してくる」と、私のパスポートを手にして、宿を飛び出して行きそうになった。
 勝手に人のパスポートを持ってどっか行かれても困る。私はおやじを制止して、奥さんにとにかく入力を続けてくれと頼んだ。

 キーボードはおやじより手馴れて入力する奥さんだが、必須項目でもない所を入力しようとしてる。私が「ブーヤオ、ブーヤオ」と、そこは必要はないと言ってるのに、反対に奥さんは「ヤオ、ヤオ」と、ここは絶対必要なのよとか言ってくる。

 とにかくこれをここに入力してくれ強調しながらどうにか作業を推し進め、ようやく全ての項目が記入できた。
 情報が保存出来た時には、おやじは笑顔でガッツポーズ。大体私が自分で入力していれば2分で済んだものを、この夫婦のせいで30分もかかったのだ。

 すったもんだの入力作業が終わり、午後一番で再度公安へ行くと、係員は30分遅れてやって来た。なぜだか受付のロビーには片足の不自由な小型の野良犬が紛れ込んでいた。こいつは私の足元に近寄ってきて臭いをかぐなり、いきなりゲロを吐き出した。

 悪い兆しの知らせだったのか、ようやくビザが貰えるかと思えば発給は2日後。調べていた情報ではビザは即日発行のはずだったが、そうではなかったらしい。
 その2日後の5度目に訪れた公安で、ようやく念願のビザを手にすることが出来た。気が付けば一番最初に公安を訪れてから、既に6日も経っていた。




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