衝撃的だった町 (緑春) 2009年7月30日〜31日


 バスはひたすら続く峠道を走りながら、山を幾つも越えていた。峠道のせいだろう、乗客の数人はゲロゲロと吐いてる。
 向かっているのは緑春という町。そこを訪れるのは観光が目的ではなく、棚田で有名な元陽に行くための乗り継ぎ地点。景洪から元陽までは遠いので、ここで一泊する必要があった。

 車窓からは飽きることない自然の景色がいくつも見れた。前半はとうもろこし畑や小規模の棚田、茶畑などが広がる緑の景色。後半は土砂崩れが目立つ茶色の道路や山といった景色。

 こんな所を大型バスが走れるのかと思う狭い箇所も進んでいった。反対側はガードレールもない斜面。地盤が緩んで転落でもしたら、崖の下でボニョっと潰れていただろう。雨季に入っているがここのところ雨の日がないので、幸いそういう事態にはならずに済んだ。

 山間部に小さな町や村がいくつもあったので、緑春もそんな場所だろうと想像していたが、到着してみるとそこそこ栄えた町だった。日も沈んですっかり夜になった町にはうろつく者が多く、衣装を着た民族の姿もある。

 バスを降りると、赤い髪の毛が付いたような黒い帽子を被った民族たちが、客引きとして集まってきた。その一人についていった宿はバスターミナルの真横。
 宿は少数民族経営なので、受付のおばちゃんもその帽子を被っていた。この環境がすっかり気に入り宿はここに決定。この時は分からなかったが、後に彼らがハニ族であることを知った。

 飯を済ませて夜の町を散策していると、路上で博打に興ずる人々がいた。それはサイコロ3つの出た目を当てるという単純な賭け事だった。
 サイコロの目は鶏、金魚、亀、像、ザリガニ、(もう一つは忘れた)の6種類で、同じ絵柄が書かれた机の上に1元札を置いて賭ける。多くの者が熱くなって何枚もの札を置いていた。他にも賭けトランプなどもあったので、ハニ族は賭け事が好きなのだろう。

 元陽行きのバスは何本もあったので、翌日は昼前まで市内散策をした。昨晩はそれほど見かけなかったが、朝の町には赤髪付きの帽子を被り、黒いパンツに赤やピンクの上着という民族衣装を着た女たちが、あちこちに溢れていた。
 籠を背負ってるのはいかにもという感じだが、ここでは肩にショルダーバッグをかけ携帯電話で話しながら歩く姿や、ゴルフ場にあるカートのような小型バスを運転する者もいた。

 どこの町にもある日常風景なのだが、それが独特の衣装や帽子を身に着けているので、まるで別世界にいるように思える。おまけに観光客などは一人もいない。こんな町に来てみたかったのだ。

 人が流れていく通りへ進むとそこは市場になっており、赤紙で召集されたのか、ここにも赤髪付き帽子を被ったハニ族の女たちが溢れていた。
 坂道になっている狭い通りの両側には、道に座り込んで売る者や、食材が入った籠を抱えて立って売る者などがいる。中には小さな蛙を売っている者もいた。

 通りには大勢の人が歩き、時にはクラクションを鳴らしながらバイクや車が走ってくる。数人の若い軍人が、荷車に乗せた大きな豚を運んだりもしていた。
 坂を下った所には、生きた鶏やアヒルが檻籠に詰まった店が数軒あり、客が来るとを引っ張り出して足を紐で結び、天秤で重さを量って売るやり取りが見れた。

 この市場にも博打場があり多くの者が集まっていた。昨晩のは6種類の出た目を当てるものだったが、こちらは25種類もあったので、当たった時の金額が高いのだろう。
 中を覗くと絵が描かれた盤があったので、これはサイコロでなく、ルーレットかダーツ方式で当たりを出すようだ。共通していたのは出た目が動物や魚といった点。人気があるのか男女問わず券を購入していた。

 元陽に行くバスを乗り継ぐため為に訪れた緑春。その理由から何の情報も持ってなかっただけに、この町で見た光景は衝撃的だった。凄い世界に足を踏み入れたもんだ。興奮した私の頭からは赤い髪は生えなかったが、アドレナリンやエンドルフィンが分泌しまくり、鼻血が出そうになるくらいの状態だった。




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