柳川で川下り (長崎〜福岡) 2011年11月21日


 昨晩見た琴尾公園からの夜景は綺麗だった。朝になってそれが大村市の方向だというのが、海に浮かぶ長崎空港を見て分かった。山の周辺には、みかん畑の景色も広がっていた。これから向かうのは諫早市。そういえば諫早はみかんが有名だったはず。

 11月も下旬になり、日毎に寒さが増している。今日も風が冷たく昨日以上に寒い。陽が出てるのでじっとしてれば暖かいが、バイクの移動は体を急速冷凍する事に等しい。
 おまけに朝から70kmは走らなければならない。考えただけでも憂鬱になるが、そんな思いもしばらくすれば凍ってるだろう。

 国道207号線で諫早市に出て、そこから国道34号線で北上。大村市の先で国道444号線に入り山を上がっていく。この国道には「しあわせ街道」という別名があったが、日陰が多い山道は寒いだけなので、今の私には不幸でしかない。
 山頂部の県境で長崎から佐賀に入る。444号線には県境の両側にダムがあった。1つの道にダムが2つあるのは初めて見た気がする。

 山を下った鹿島市で63番蓮厳院、62番誕生院を参拝。そのまま444号線を走り、有明海でムツゴロウを見ていった。
 潮が引いた干潟の上で生活するムツゴロウは、日本、朝鮮半島、中国、台湾といった東アジアに分布するが、日本では有明海と熊本の八代海に限られるという。

 ムツゴロウは珍味としても有名で、蒲焼や甘露煮にして食べられる。獲り方はムツカケという独特の漁法で、5mほどの竿を使う引っ掛け釣り。針を投げてから獲るまで僅か5、6秒の早業らしく、この技を持つ名人の漁師は今では数人しかいないようだ。

 長い竿を使うので遠くの獲物を狙うのだろうが、私がムツゴロウを見た場所では2、3m先の近距離にウジャウジャいた。長い虫網があれば獲れそうだったが、そう簡単にはいかないのだろう。

 八十八ヶ所巡りに考えた独自のルートは、ここからが一番悩んだ部分。峠越えは時間が掛かるので、それを回避しながら効率よく回るのは、大きなS字を描くようなルート。
 有明海からは東に進んで福岡県の南部を巡り、再び佐賀県の中央部に戻る。その後、長崎県の北部を巡って折り返し佐賀県の北部へ。そして福岡県の中部と北部を巡って終了するという方法だ。

 福岡県南部を目指して走っていくと、佐賀県との県境に流れる筑後川に重要文化財の昇開橋が架かっていた。旧国鉄佐賀線の鉄橋として作られた橋は、名の通り中央部が上下に移動し、大型船が通れるようになっている。
 佐賀線の廃止で鉄道橋としての使命は終わっていたが、現在は遊歩道として残され通行が可能だった。しかし、運悪く休日に当たり、川岸から眺めることしか出来なかった。

 福岡県に入って柳川市を走っていると、街中に流れる川に客を乗せた舟の姿があった。川下りの観光でもあるのかと、写真を撮る為に停車した場所がなんとその発着所。おまけに次の舟が10分後に出るというタイミングだった。これは面白そうなのでバイクをそこに停めて、1時間の川下りを楽しむことにした。

 舟は城下町に作られた人工の堀を、歩くよりも遅いスピードで進み、船頭が話す町の歴史を聞きながら、情緒ある風景を楽しめるといった内容だ。
 柳川は多くの有名人を輩出しており、北原白秋などの文人が代表的だという。芸能人にも出身者が多いようだが、この時は九州場所で大関に昇進した琴奨菊が話題だった。

 この日は寒くて舟には毛布があったが、真冬には炬燵を用意するという。飲食の持込も可能で、途中には酒などを買える店もある。宴会をしながら川下りする客も多いようだ。
 堀沿いの民家には水辺に面した入口があり、自分の舟を持つ家も多くあった。ちっとした時にこんな時間が味わえるのは羨ましい。この町は住みたいと思わせる良さがあった。

 川下りの終着場からは路線バスで出発地点に戻り、再びバイクで出発。国道443号線で東に向かい、59番光明寺がある筑後市へ着いた。
 ここで大きなミス。寺のすぐ近くまで来たのにキャンプ地の事ばかり考えていた為、59番をすっかり忘れ、次の10番不動時に行ってしまった。

 そこで気付かなければ、旅を終えて家に戻るまで分からなかっただろう。探していたキャンプ地も、忘れた59番光明寺の真横で難なく発見。20kmは無駄に走ってしまった。

 光明寺裏の矢部川沿いは筑後広域公園になっていて、九州新幹線の筑後船小屋駅もあった。川沿いには空き地がいくらでもあったが、ウォーキング・ロードになっていたのでたまに人が来る。どのポイントも人目に付く場所だったので、暗くなってからテントを広げた。

 今日は珍味のムツゴロウを味わう事は出来なかったが、代わりに偶然見つけた川下りを楽しめた。こういう発見は旅の醍醐味でもあるが、今回は人との出会いが少ない。
 公園にゆかいな仲間が現れる気配はないので、干潟に出ては隠れるムツゴロウのように、私は夕方テントに隠れて寒さを凌いだ。

[この日の写真]




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