アナーキー・イン・ザ・九州 (鹿児島〜熊本) 2011年11月18日


 奄美大島で英気を養い、再び鹿児島に戻ってきた。八十八ヶ所巡りはここから後半戦といったところだが、今まで訪れた寺は28ヶ所でまだ全体の4分の1。
 福岡県の小倉に戻るリミットはあと7日だが、寺は最後の方でまとまって点在してるので、順調に行けば日程はぴったりだろう。

 鹿児島港を出発し、まずは市内で44番不動寺を参拝。本堂には朝の掃除をする住職の奥さんらしき人がいた。私が寺巡りをしてると知ると、寺のしおりが入った煎餅をご接待してくれた。マイナーな遍路道で初めてのことだ。

 これは幸先がいいぞと思ったが、すぐに雨が降り出した。おまけに今日は桜島の火山灰もひどい。ガソリンスタンドで給油時に店員に聞いたところ、雨の日の火山灰が一番厄介らしい。灰に水が混じることで、セメントのようになるからだという。

 海沿いの国道10号線をしばらく走ると火山灰の影響はなくなったが、反対に雨が強くなってきた。煎餅の御利益も湿気により、早くもしなったようだ。
 加治木で43番法城院を参拝した後、県道42号線で内陸部へ進む。山間部に入る手前の八幡神社には、日本一の巨樹という蒲生の大クスがあった。

 国指定の特別天然記念物であるこのクスの高さは30m。樹根部にはタタミ8畳ほどの空洞があるのだが、そのドアには鍵が掛けられていた。土産屋の店員に話を聞くと、昔は入ることが可能だったが、子供の事故があって以来封鎖してるという。

 その先の藺牟田池の近くには世界一の郷水車があった。直径13mの大きさが世界一なのだろうが、目の前で見てもその肩書きはまったく伝わってこない。
 水車の後ろには土産屋があり、ホクホク里芋のから揚げという「さとっこあげ」の旗が立てられていた。こちらの方がよっぽど興味が湧いたが、閉店でその気持ちは撃沈。ここは竜仙峡という渓谷の入口でもあったが、見る気も失せたので立ち去った。

 県道51号線で山を抜け虎居町で46番峰浄寺、国道267号線に出て求名で48番弘法寺を参拝した。この八十八ヶ所巡りでは、寺で参拝客を見たことが一度もない。おまけに住職の姿を見る事もほとんどなく、本堂の扉が閉まってることも多かった。

 弘法寺では本堂横の住居から音がしたが、それは木魚ではなく、なんとドラムの練習音。叩いているのが住職だったら、かなりパンクだ。もしここでギターがあったらその8ビートに合わせて、私は「アナーキー・イン・ザ・UK」を「九州」にして歌っていただろう。

 ここ数日間で飲んでいるのは「伊佐錦」という鹿児島の焼酎。その原料を生み出す田園が、国道267号線の伊佐市周辺に広がっていた。畑の横には少し間抜けな顔をした「田の神」という石像もあった。昔からここは米の産地なのだろう。

 県道48号線で東へ向かい、そのまま県道448号線を走る。この林道がローカルで最高だった。茶畑や放し飼いの酪農場があって景色も豊富、道もアップダウンやワインディングがあって走り甲斐がある。雨じゃなかったらもっと最高だったろう。

 山を抜けて国道268号線に出た後、宮崎県に戻ってえびの市の42番弘泉寺を参拝。この境内には様々な石像があり、人懐っこい白山羊が飼われていた。参拝客が訪れそうな雰囲気はたぷりあったが、この時は山羊以外の姿はなかった。
 来た道を少し戻り、国道221号線を北上して熊本県に入る。この道にはループ橋が2ヶ所あり、高台からは眼下に広がる高原の景色も堪能出来た。

 人吉市から国道219号線で東に進み、多良木町で51番勘代寺を参拝して今日は終了。残る仕事は今夜の寝床探し。地図上には目ぼしいポイントがなかったが、寺に来る途中でこの先に展望公園があるという看板を見たのでそこへ行ってみた。

 公園は人口的に作られたものだったが景色は最高で、多良木町やあさぎり町に広がる田園風景が一望出来た。テニスコートほどの高台にはベルが付いたアーチのようなものがあり、その下には階段が続いていた。おそらく結婚式などに使われるのだろう。

 風をもろに受ける場所だったが景色に一目惚れをしたので、ここでキャンプすることにした。一つだけ心配だったのは、到着した時に入れ違いになった2tトラック。その後方には紐に繋がれてない6匹の犬が、車を追いかけるように走っていたのだ。

 多分、豪快な散歩をしていただけだろうが、トラックの運転手が公園の管理人だと、夜中に犬を連れて来る可能性もある。そうならないことを祈るだけだ。まあこの旅は「アナーキー・イン・ザ・九州」なので、ここを管理する者も現れないだろう。

[この日の写真]




Copyright (C) 2019 諸行無常 All Rights Reserved