不満・肥満・浪漫 (大分〜宮崎) 2011年11月11日


 昨晩から雨が降りだし、今日の天気予報も雨。おまけに昨日よりも寒い。早起きしたが、じっとしていても寒いだけなので、雨対策をして日の出前に田の浦ビーチを出発した。

 今回の旅用に購入した防寒着は、安物の為か早くも上着のジッパーが壊れた。一応閉まるのだが、動いていると中間から開いてしまう。バイクで走っているとその隙間から風が入り、体温がかなり下がるので、中にフリースを着込んで走る事にした。
 寒さは凌げるが風の抵抗も受けるのが鬱陶しい。そこで、コンビニで安全ピンを買い、簡易ジッパーに代用した。

 まずは大分市の中心部で26番福寿院を参拝。そこから30kmほど移動して、臼杵市にある28番興山寺へ。その先の津久見市で29番海岸寺、佐伯市で30番大日寺と巡った。どの寺も立派な寺だったが、山中にある興山寺が特に良かった。

 4つとも海近くの場所だったが、次の27番蓮城寺は50km離れた内陸部に位置する。雨の寒い中で国道10号線を大分市に戻るように走っていくと、「日本一美しい鍾乳洞」という風連鍾乳洞の看板を目にしたので立ち寄った。
 入口で話を聞いてみると、鍾乳洞の奥には龍宮城と呼ばれるメインの鍾乳石があるという。そこまで行って戻ってくるのに約30分。入場料金は800円と高かった。

 建物内には新聞で紹介された写真付きの龍宮城の記事や、ポスターなどが貼られていた。それを見てしまったのでほとんど入る気は失せたが、ここまで来たのだからと高い入場料を払って奥まで進んだ。
 見所は一番奥の龍宮城のみ。確かに見応えのある鍾乳石だったが、感動は入口のポスターのせいで半減。あれは貼るべきじゃない。入場料も400円がいいところだ。

 鍾乳洞を出た後、国道502号線で西へ進み、国道326号線で南下。そこで探していた大分名物の「とり天」の旗を掲げる店を発見。ちょうど昼時だったので休憩していった。

 この店は肉屋でグラム単位の単品でも買えたが、栄養補給にとり天弁当を注文。早速食べてみたが特に変わったものじゃなく、タルタルソースを付けただけの唐揚げ。
 鍾乳洞での不満な気持ちを解消出来ると思ったが、肉の脂質はエネルギーでなく、不満に変わるだけだった。

 その先でようやく27番蓮城寺に到着。ここには高さ22mの巨大な般若姫像が建ち、遠くからでもそれがよく見えた。
 内山観音の名でも有名な蓮城寺の薬師堂には、京都三十三間堂と並ぶ998体の薬師像が安置されている。それをすっかり忘れていて、外観を眺めただけで去ってしまった。後で気付いた時にはさらに不満な気持ちが倍増し、肥満となって体に蓄積された。

 気持ちをなだめようと、326号線沿いに流れる北川の景観を眺めながら、坂道を加速して下っていた。すると、突然後ろからパトカーが出現。少し先に停車して警官が降りてきた。私が望んでいたのは景観で、この警官じゃない。

 バイクが原付と知った警官は、スピードを出しすぎてたと注意してきた。私は旅している事を説明し、たまたま坂道でスピードが出ただけだと言い訳。スピード違反を切られるかと思ったが、これが人の良い警官で、事故が多いから注意しなと言われただけで済んだ。

 ここまではツイてなかったが、ようやく運気も天候も回復してきたようだ。停められたすぐ先から宮崎県に入り、326号線と10号線でさらに南下していった。
 27番蓮城寺から60kmほど走り延岡市到着。ここで32番光明寺、31番龍仙寺を巡った。龍仙寺は寺だというのに、参道には鳥居が沢山あった。詳しくは分からないが、おそらく神仏習合の寺なのだろう。

 海沿いになった10号線を南下して、33番永願寺を参拝。本堂の横には住職の住まいと思われる家があった。夕方の人気のない時間に訪れたので、写真を撮ろうと境内でうろついていると、おばちゃんが家から出てきて「何の用ですか」と怪訝な顔をしてきた。

「参拝ですけど」と言うと、おばちゃんは何も言わず引っ込んだが、随分変な質問である。私は特別怪しい行動をしていたわけでもない。こんな質問をするのは、よほど参拝客が来ていない事を実証している。

 日向市の東の岬には、高さ70mの断崖絶壁である「馬ヶ背」があったので寄って行った。これは海側から眺めればもっと絵になったのだろうが、上からは垂直っぽい断崖を見るだけで、想像していたほどの感動はなかった。

 駐車場で250ccのバイクで日本を一周中の、東京から来た若者と会った。既に半年旅しており、ここから太平洋側を北上して東京にゴールするという。やけに小奇麗な格好で荷物も少なく、毛布だけで野宿してきたらしい。
 ハンドルの中央にはカーナビのようなものを付けていた。こういう旅のアイテムも、アナログからデジタルに変わりつつあるのだなあと感じた。

 日沈までまだ少し時間があったので、もう一つ寺を巡ろうと10号線に戻って南下。だが、うっかりしていて寺を通り過ぎ、キャンプ目的地の金ヶ浜に着いてしまった。
 既に暗くなっていたので、寺は明日に戻ればいいと海岸付近を散策したが、ここに目ぼしいキャンプポイントはなし。地図を見ると5km戻った所に、伊勢ヶ浜というビーチを発見。どうせ明日は戻る必要があるので、そちらに向かうことにした。

 伊勢ヶ浜は駐車場やトイレもあるばっちりのポイントだったが、若者の溜まり場になっていた。ここにテントを張ると、車のエンジン音や車内から漏れる音楽聞こえてうるさい。それに、悪ガキがいると、また睡眠を邪魔されるという可能性もある。
 奥まで続く浜の先は真っ暗。行ってみると森のような公園があり、芝生が広がるポイントがあった。真っ暗なので人が来る可能性もゼロ。迷うことなくそこにテントを広げた。

 今日は寒い中を我慢して走り不満が募って肥満もしたが、最後には違反を見逃してもらえるという自慢のネタも出来た。
 マイナーな遍路道だが、道中では面白いことも起きる。私にとってはル・マン24時間レースのようなものであり、浪漫がある旅なのだ。

[この日の写真]




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