宗教歌を聞きにいく (ブラフモンバリア) 2003年6月24日〜25日


 ヒンドゥー教の宗教歌「キルトン」を聞くために、ブラフモンバリアを訪れた。宿から歌が聞けるカーリーバリ寺院へ向かうと途中で若者の集団に出会い、その中の一人が寺院まで案内してくれた。
 キルトンが聞けるのは夜の9時からだと言うので、寺院の隅に腰を下ろし、始まるまでこの若者と会話していた。

 若者は大学生で、何故だかオーストラリア人の彼女を欲しがっていた。一緒にツアーガイドのビジネスをやらないかなどとも言ってきたが、私は忙しいから無理だと断り、努力して日本でもオーストラリアにでも行ってくれとアドバイスした。

 大学生の若者と話している間に、子供が一人加わってきた。どう見ても小学生か中学生くらいの年齢だったが、何か修理の仕事をしていると言う。
 暗がりの寺院には壁はなく、何本か点された蝋燭の明かりの前に信者たちが集っていた。大学生と子供と話しを続けていると、その内に歌が聞こえてきた。

 キルトンは弦楽器などを使用する音楽かと勝手に想像していたが、実際はお経のような歌だけのもので、雄たけびの様に声を上げる部分もあった。その歌に合わせて寺院の主のような男が鈴を鳴らしながら踊っていた。

 静かにキルトンを味わいながら物思いにでも耽りたかったが、大学生の友達や地元の人間が来る度に質問攻めに合うので、とてもそんな状況ではない。歌を聞くよりも、話の方で忙しかった。
 しかし、小さな祭りのようにも思えたこのキルトンを地元の連中たちと一緒に聞けたのは、町の住人にでもなっているような気分だった。

 ブラフモンバリアにはバングラデシュ唯一の資源とも言えるティタス・ガスがある。町には大きなガス工場がいくつもあり、煙突から赤い炎が噴出するのが見えたのでそれを目指してみた。  ティタス川沿いに広がる田園の中を歩いていると、田んぼで昼寝していた2人の地元人と出会い、話をすると煙突まで案内してくることになった。

 煙突の近くには彼らが住む村があり、そこでチャイをご馳走になった。そこであっという間に30人程の男たちに囲まれ、恒例の質問攻めが始まった。
 英語が達者な奴が一人いたので、彼が通訳になってのインタビュー形式。これには私も面白くなり、冗談を交えながら受け答えた。

 みんな気さくな連中で誰もがいい顔をしていた。村を出るときには、いたずら好きな子供の一人が動物のお面を被って現れた。自分を見て欲しいのだろうが、恥ずかしそうに隠れたりしながら、私を追いかけていた。

 宗教歌のキルトンを聞きに来たブラフモンバリアであったが、むしろ歌を聞くより、地元の人間の話を聞きに来たようだった。不満や夢を語るその肉声の方が、宗教歌よりもはるかに生々しく耳に残った。




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