聖者と愚者 (チッタゴン) 2003年6月10日〜14日


 チッタゴン市内の北にある「この国最古のモスクの一つ」という、バヤジッドボスタミ聖者廟に行ってみた。バスを利用してある程度の場所まで行ったのだが、途中で行き方が分からくなった。
 英語がなかなか通じないので、人に尋ねても教えてもらえない。何台か捕まえたベイビー(三輪タクシー)の運ちゃんにようやく通じ、どうにかたどり着くことが出来た。

 バヤジッドボスタミ聖者廟の下にあった池の中には、巨大な亀が何匹もいた。この亀は「クロスッポン」というもので、世界中でこの池にしかいないという超貴重であるらしい。
 餌としてパンの切れ端を売っており、訪れていた信者たちが餌を与えたり、亀の甲羅を触ったりしていた。

 驚いたのは亀に触るだけでなく、濁った池の水でうがいをしたり、顔を洗ったりしていたことだ。そんな事を亀たちは気にするわけでもなく、投げ込まれた餌を奪い合っている。そもそも巨大なので、その格闘は迫力があるものだった。

 階段を上がりモスクに行こうとすると、地元のおじさんに声を掛けられ中を案内してくれた。おじさんの説明では、このモスクにはかつてイスラム教で有名だった人が住んでいたらしく、1972年に亡くなったという。

 その人の墓や当時住んでいた部屋なども、このモスクにはあった。写真を撮ろうとすると、おじさんに注意されたので止めた。ムスリムの者にとっては、よほど神聖な場所であるのだろう。

 モスクを抜けると小さい村があり、おじさんのいとこだが知り合いがやっているという商店へ招かれた。そこで、コーラやバナナ、クッキーなどのおもてなしを受けた。
 こういう親切を頂くと、正直まいってしまう。ただの通りすがりの旅人に、ここまでしてくれる優しさ。自分達は貧しく、私達日本人の方が裕福なのもわかっているはずなのに。

 それを知っていて漬け込んでくる卑しい輩もいるが、ここの人たちはまったく違かった。モスクをガイドしてくれたり、こんなもてなしをしてくれても、チップや金を要求してくることは一切無かった。

 村の子供達も大勢集まってきて、興味津々に私を取り巻いていた。元気で無邪気な子供達は、誰も屈託の無い笑顔をしていた。写真を撮ったので、もう一度チッタゴンに戻ってきた時に、人数分焼きまわしてあげようと思った。

 チッタゴンには「Ship Breaking Yard」と呼ばれる、大型船の解体所があったので、ニューマーケットからリキシャに乗って目指した。運ちゃんに料金を尋ねると「ファイブ」と言われたので、5タカくらいの近い場所にあるのだなと予測した。

 結構走った海辺の辺りでリキシャが止まったので5タカ払うと、運ちゃんは5ドルだと言ってきた。頭に来たので、どうしたらリキシャの料金が5ドルになるんだと、大声で言い合っていると、野次馬が20,30人集まってきてしまった。その中に英語が話せる奴がいて1人いて、相場が20タカだからそれを払ってやれと言ってきた。

 あきらかに料金をぼろうとしていた運ちゃんに、今更正規の金など払いたくなかったが、この場を収めるには私がその金を払うしかなかった。
 ここが目的地の解体所かもはっきりしないが、それらしき大きなゲートがあったので中へ入ろうとするとが、門番に通行所がないと入れないと門前払。結局何も見れず、来た道を歩いて引き返した。

 バヤジッドボスタミ聖者廟にいた無欲なオジサンに、欲まみれだったリキシャの運ちゃん。このチッタゴンでの私の欲はレストラン・バーに行って、宿よりも高い料金の生ぬるいビールを飲んで疲れを癒すことくらいだった。




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