富士山 御中道巡り (距離:23.9Km) 2012年7月15日〜16日


1日目
11:00 吉田口五合目
11:15 登山口
11:30 富士山安全指導センター
12:30 御中道入口(迷う)
13:15 六合目 長田山荘
14:00 本六合目 瀬戸館
15:10 木の棒
15:30 御殿場ルート
15:50 プリンスルート
16:15 宝永山馬の背
16:40 宝永山第一火口
16:55 宝永第一火口縁
17:00 六合目 雲海荘





[ この登山の軌跡 ]

2日目
5:30 六合目 雲海荘
6:00 御中道入口
6:30 「お中道」の岩
6:50 赤沢
7:10 箱荒沢第2
7:20 主杖流し
7:30 鬼ヶ沢
8:00 桜沢
9:10 不動沢
9:40 大沢崩れ
10:25 黄色の注意看板
10:45 落石ネット
11:15 調査現場口
11:45 大沢休憩所
12:15 一番沢
12:25 仏石流し
12:30 滑沢
13:10 休憩所
13:40 吉田口五合目


1日目 吉田口五合目〜富士宮口六合目 (所要:6時間 距離:11.7Km)

 3回目の富士登山は、最古の登山道である村山古道を歩き、海抜0mから頂上まで上がった。これでもう富士山には登ることはないと考えていたが、ガイドブックには乗らないバリエーションルートというものが、西側にある事を知ってしまった。

 そのルートの一つである主杖流しは、溶岩が流れ落ちて固まった岩場の沢を、頂上まで標高差1000mを直登していくという内容。その沢に至るには、富士宮口の六合目から「御中道」というルートを歩いていくようだった。

 この「御中道」は、富士山中腹の標高差2300m〜2800mを通って一周する、約25kmの小径。かつては富士講の信者たちが巡拝した道で、富士山に3回以上登頂経験のある者しか入ることを許されなかったという。

 御中道で最大の難所は、現在も崩壊が進んでいる西側の大沢崩れ。昭和の中頃までは歩けるルートがあったが、昭和52年にそこで転落事故が発生して以来、閉鎖されてしまったという。
 だが最近でも、御中道を一周したという内容のブログやHPが多くあった。調べてみると難所の大沢崩れは、工事現場を通過すれば渡ることが可能だというのだ。

 本来はそこも立ち入りは禁止だが、2011年3月の大地震で工事現場は大きく崩れ、それ以来工事も中断してるので人もいないらしい。
 主杖流しで再び富士山に登ろうと思ったが、この御中道にえらく興味が沸いた。私は前回で富士山は3回登ったことになるので、ここを歩く権利もある。それに、今後にやろうと思っている主杖流しを通過するので、下見することも出来る。

 という事で、まずはこの御中道を制覇してみることにした。正式な巡拝は吉田口六合目から時計回りに一周するらしいので、それに倣って行うことに。
 一周の所要は約14時間。中には1日で歩いてる人もいたが、それは疲れるので日程は1泊2日に し、富士宮口六合目の山小屋に泊まることにした。

 まずは、スタート地点の吉田口五合目まで、河口湖駅からバスで向う。この時は3連休で登山客も多く、五合目に向かうバスは立ち乗りも含めた満車。スカイラインもマイカーの通行規制がされていた。
 調べていた御中道の入口は、下山道にある洞門(落石防止シェルター)の近くだったので、富士山安全指導センターがある六合目から下山道を上がって行った。

 洞門の辺りに着き、それらしき入口を探したが見つからない。近くに下山に使える馬を連れた兄さんがいたので聞いてみると、御中道はもっと上だという。
 七合目公衆トイレが見える辺りまで登ったが、やはりそれらしき入口はない。これは絶対に下だと来た道を戻り、洞門を3つ過ぎてクランクになった場所で右側を見ると、藪の中へ進む細い踏み跡があった。

 そこを少し下って行くと、もっと明瞭な踏み跡に出た。これに間違いないと、木々の中を進んで須走方面へと向かって行く。
 いくつか沢を越えながら進むと小屋に出た。調べていたルートでは本六合目の瀬戸館に出るはずだったが、その小屋は六合目の長田山荘だった。

 山荘の主人と話して分かったのは、私が歩いてきたのは新しい御中道で、本来の御中道はもう少し標高の高い位置にあったようだ。
 この先は本六合目の瀬戸館の横から進んでいけるというので、そこまで登って瀬戸館の主人に再び道を尋ねた。

 帰ってきた返答は、須走口の下山道は台風の影響などで土砂が流出し、現在は通行が閉鎖してるので渡るのが難しい。それに、御中道の踏み跡も土砂で消えてしまっているとの事だった。

 だが、ここから富士宮口六合目までは、山肌が露出した部分なので、道に迷う可能性はほとんどない。標高を下げずにひたすら南にトラバースして行けば、宝永山に辿り着けるはずなので、あの辺が御中道だという教えられた場所へ進んで行った。

 須走口の下山道はさほど難もなく通過。土砂で道は消えてるとの話だったが、その先には明瞭な踏み跡が残り、岩に記されたペイントもあったので迷うことなく進んでいけた。
 須走口から富士宮口までの御中道は「砂山の道」と呼ばれるもの。その通りに足場は傾斜の砂地で歩きにくかった。山頂を見上げれば、やや大きめな石も点在してるので、落石の危険もある。おまけにこの日は風が物凄く強くて、歩くだけでも苦労した。

 進むごとに風の強さが増し、周囲も雲に覆われて真っ白に。踏み跡だけを頼りに歩いていくと、御殿場ルートに出た。ロープがされた注意看板を通過し、そのままトラバースして進むと、今度はプリンスルートに出た。どちらにも木の棒が立っていた。

 この辺りまで来ると風の勢いが半端じゃなくなった。吹き飛ばされる程ではないが強さはそれに近い。体を屈めて強い風が収まるのを待ちながら進んでいく。プリンスルートを越えると踏み跡がなくなったので、すぐ先で出た広い道を下っていった。

 すると一瞬視界が開け、その下に案内板と宝永山と思われるものが見えた。富士宮口六合目までは宝永火口を通るので案内板を確認しに行くと、そこは宝永山馬の背で、宝永火口のすぐ上だった。

 そのまま火口に下りていくと強風が静まり、視界も開けて景色が明瞭になった。一週間前に富士宮口六合目から下山する時は、富士山休養自然歩道を歩いて御殿場口五合目まで歩いた。その時も風が強かった。おそらくこの辺りは風の通り道になってるので、もろに影響を受けるのだろう。

 ここまで来れば富士宮口六合目はすぐそこ。宝永火口から少し登り、宿泊を予約していた雲海荘に到着して1日目を終了。
 1週間前にもここへ立ち寄ったので、山荘の女将さんやバイトの女の子が覚えていてくれた。今回は人の良さそうな主人もいて、水や酒をサービスしてくれた。

 アットホームな雰囲気にすっかり落ち着き、他の宿泊客や従業員たちと消灯時間の21時まで談笑して眠りに就いた。


2日目 富士宮口六合目〜吉田口五合目 (所要:8時間 距離:12.2Km)

 富士宮口六合目の先にある御中道の入口は調べていたが、念の為に雲海荘の主人に詳しく教えてもらい出発した。
 行き方は山荘から登山道をしばらく上がり、右側に小屋跡の平地、左側にロープが張られた立入禁止看板の場所で登山道を左に外れる。そのすぐ先でブルトーザー道に出るので右へ上がっていく。

 進むと右カーブする所に文字のない案内板がある。ここが入口なのでそこを左に。少し下ると岩にペイントされた場所があるので、そこを右斜めに上がるとトラバースしていく踏み跡が出てくる。
 ここから先は岩のペイントを辿っていけば問題ない。しばらく進めば「お中道」と書かれた岩がある。

 3連休なので昨日も今日も登山客が多かったが、御中道は誰も歩いてなかった。私としてはこの方が冒険してるようでいい。
 今日は天気も良く景色も抜群。右に富士山頂、左に駿河湾を見て歩けるのは贅沢な気分でもある。上から見ると裾に広がる森の起伏も良く分かる。

 富士宮口から大沢崩れまでは「沢と溶岩の道」。その通称通り、ここからは所々で溶岩が固まった沢を越えていく。
「お中道」と書かれた岩の先で藪の中に入っていく。その先で赤沢を越え、次に箱荒沢第2を越える。ここは岩に「ハコアラサワ2」と記されていた。

 この次に出てきたのが、バリエーション・ルートの1つである主杖流し。溶岩が固まった沢を見上げると、そこそこの傾斜が山頂まで伸びていた。実際に目にして「やれる」と確信したので、近いうち挑戦しようと思う。
 主杖流しの先で樹林帯に入り、下り気味に進んでいく。ペイントやリボンを辿って進むと鬼ヶ沢に出る。ここも岩に「オニガサワ」と記されていた。

 この先からリボンを辿りながら進んでいたが、途中で見失ってしまった。樹林帯には獣道や紛らわしい踏み跡が多いので、どこかで間違えてしまったのだろう。
 5〜10分歩いて次のマーキングが見つからなければ、正規ルートから外れたと考えろとの情報があった。その際は前のマーキングに戻った方がいいらしい。

 だが、私は面倒臭かったので、そのまま獣道らしき踏み跡を進んだ。もう後には引き返せない。藪漕ぎをしながら進むと、ガレ場の桜沢に出た。
 沢の上下にペイントがないか見渡すと、やや上の方の岩に白っぽいマークがあった。御中道では迷ったら登れが鉄則なので、歩きにくいガレ場を上がっていくと、岩にあったのはただの模様。もう完全に道を見失った。

 この先には竹沢、不動沢、大沢崩れと沢が続く。大沢崩れを渡るのは標高2100mにある工事現場で、現在の標高は2400mだった。
 このまま標高を落とさずにひたすらトラバースしていけば、必ず大沢崩れの左岸に出る。そこで沢づたいに下れば工事現場があるはずだ。

 もう印には頼れないので、桜沢からひたすら真横にトラバースして行った。この辺りは樹林帯だったので、道なき道を進むには藪漕ぎの連続。歩くのは大変だったが、迷ってしまった状況が面白くもあった。

 途中で傾斜がある箇所で、倒れていた大木を掴みながら渡ろうとすると、その大木が私の方に滑り落ちてきてそのまま転倒。木と一緒に50cm位の石も転がってきた。
 幸い後ろに藪があったので転げ落ちる事はなかったが、大木が下半身に乗っかり、脱出するのにやや手間取った。
 怪我は腕を少し擦りむいた程度で済んだ。迷った状況は楽しんでいたが、こういう状況はちっとも面白くない。

 正規ルートからとらばーゆしてしまったので、とにかくトラバースで進むこと1時間半。今までとはスケールのまったく違う大きな沢に出た。
 底までの高さは2,30mはあっただろうか、絶壁になってるので降りることは不可能。下の方を見てみると、遠くに工事現場の足場が見えた。これが大沢崩れに違いない。その姿は沢というよりほとんど谷だった。

 大沢崩れの手前には不動沢があり、そこを渡るのも難儀するとの情報だったが、桜沢から通過してきた沢にそんな場所はなかった。私が歩いていた所はたまたま沢が浅かったのだろうか。

 とにかく大沢崩れの左岸から離れないように、工事現場へ向かってひたすら下ると、調べていた黄色の注意看板があった。そのまま通過して踏み後を辿りながら降りていくと、ワイヤーの落石防止ネットの上に出た。

 向かいの右岸には梯子も見えたので、そこからネットをつたって底へ降りた。下から見上げる大沢崩れも大迫力。山頂の剣ヶ峰には気象観測所が見え、その真下から大きく崩れていた。

 右岸には2つ梯子があったので手前の梯子を上がり、左側に見えた階段の梯子を進んだ。その先で何度か階段の梯子を上がると、「調査現場入口」の看板がある右岸の尾根に出ることが出来た。
 この先にある大沢休憩所までは勾配がきつく、30分登って休憩所に到着。最大の難所である大沢崩れは無事に渡ることが出来た。

 ここまで来ればほとんど終わったようなもの。この先からは吉田口五合目までは、御中道の中で唯一残る整備されたルート。大沢崩れから須走口までは「樹間の道」と呼ばれる。その通りに木々の中をハイキングさながらに歩いていく。

 今までは1人も出会わなかったが、ここでは何人もの人とすれ違った。吉田口から大沢崩れを見に行く人は多いようだ。
 この先でもいくつか沢も通過していったが、大沢崩れを見た後では、それらの沢は何でもないものに見えた。

 大沢休憩所から2時間歩き、吉田口五合目に到着して御中道巡りを達成。道中ではバラエティ溢れる景色を堪能したので、さらなる富士山の一面に触れることが出来た。
 今回私は1泊2日の日程で、1日目は6時間、2日目は8時間歩いた。無理すれば1日でも歩けると思うが、かつて富士講の信者たちも1泊2日で歩いたようなので、やはりそれが丁度いいと思う。

 これで御中道も制覇したので、次に富士山に来るときは主杖流しでの登頂だ。これもまた別の楽しさを味わえるだろう。
 村山古道をきかっけに、知らなかったルートを次々と発見すると同時に、すっかり富士山にハマッてしまったようだ。




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