火葬式ガベン (メングウィ) 2007年4月19日〜23日


 火葬式ガベンを見るのにツアーを利用しようと考えていた。だが、バイクでタマン・アユンを訪れた時に出会ったおじさんから、2日後にメングウィでガベンがあると聞いた。
 このイベントは是非と見たいし、個人で行けるならその方がいいと、クタ・ビーチで再度バイクをレンタルしてメングウィへと向かった。

 式が始まるのは昼12時からだったが、タマン・アユン寺院の先にある小さな寺院に行くと、1時間前に早くも大勢の人が集まっていた。
 寺院の入口では葬儀のための音楽「ガンバン」を奏でる楽団がいて、印象的なメロディの演奏のなか、次々とお供え物が運ばれていた。

 おじさんから聞いていた話では、今回亡くなったのは町で2番目に偉い坊さん。そのため、今回は大きなイベントなのか、男たちはやぐらの絵と「NGASTI WIDANA」という文字が背中にプリントされた、お揃いのTシャツを着ていた。

 12時を回ると寺院から棺が運び出され、キンキラに飾り付けられた壮麗な神輿に入れられた。この神輿の後部には大人の人間と変わらぬ大きさの、羽を持つ河童のような顔の妖怪が付いていた。
 この他に、牛の顔をした大きなキリンの神輿もあった。それぞれが男たちに担がれ、1km先の火葬場まで大行進となった。

 村中の人々が集まってきてたのだろうか、とにかく凄い人の数。強い日差しと人の熱気が、辺りの気温をさらに高めていた。参加者にも見学者にも無料の水が配られ、誰もが暑さのため飲んだり頭にかけたりしていた。

 運んでいる神輿が高く電線に当たるので、所々で長い棒を使って電線を持ち上げたりしていた。道の両側に集まる者たちに見せ付けるかのように、途中で止まってその場で神輿をぐるぐる回したりもする。その度に担いでいる男たちも盛り上がり、笑ったりしている。

 ガンバンを奏でる楽団も演奏しながら行進してるので、余計に賑やかだ。日本の葬式という観念とはまるでかけ離れ、陽気な華やかなほど。これを葬式と知らないで目撃したら、間違いなく祭りだと思うに違いない。

 火葬場に着くと棺が一度出され、牛キリンの方に入れ替えられた。そして、偉い坊さんが現れて祈りや儀式が簡潔に行われると、蓋がされて火が点けられた。
 一緒に運ばれてきた牛キリンは飾りか何かと思っていたが、それは火葬するためのものだった。牛キリンが燃やされるている横の建物では、一緒に運ばれてきたお供え物の花々が、人の手によって燃やされていた。

 これが密集した場所で行われているので、あちこちから煙が立ち込めて目が痛くなる。ここでも楽団が演奏を行い、その向かい側では年配の女たちが別の唄を歌っている。
 左右から違う音楽が聞こえてきたり、色々なものを焼いている煙が充満してたりと、やたら忙しい火葬式だ。

 焼かれた後の灰や骨は、ヤシの実の殻に入れられて海に流すという。私はそこまで見なかったが、代わりに焼かれた豚の料理「パピグリン」を、屋台で買って胃の中に流した。
 すっかり観光地化してしまっているクタ・ビーチなどにいるよりも、この葬式に参列出来た事の方が何百倍も価値のある経験だった。

 村中の人々が総出になって1人の人間の終わりを見届ける。まだこの国では人間の死というものが人々の身近にあり、メメント・モリがしっかりと残っているのだろう。火葬式ガベンは葬式ながら、まさに歓喜に満ちた壮大なイベントだった。 




Copyright (C) 2019 諸行無常 All Rights Reserved