西丹沢ドーガク尾根 (距離:18.5Km) 2012年8月9日〜10日


1日目
8:10 玄倉バス停
8:35 立間大橋
8:45 尾根取付
9:40 敷地山
10:20 芋ノ沢ノ頭
11:05 白ザレのピーク
11:50 大タル丸
12:20 女郎小屋沢乗越
12:50 女郎小屋ノ頭
13:15 モチコシノ頭
14:20 沢 (迷う)
15:40 裸山丸

[ この登山の軌跡 ]

2日目
5:00 裸山丸
5:50 沢 (迷う)
7:15 モチコシノ頭
7:45 女郎小屋ノ頭 (迷う)
10:00 女郎小屋沢乗越
10:30 大タル丸
11:30 白ザレのピーク (迷う)
13:00 芋ノ沢ノ頭 (迷う)
14:30 敷地山
15:30 尾根取付
14:40 立間大橋
16:20 玄倉バス停




1日目 玄倉バス停〜モチコシノ頭 (所要:7時間半 距離:8.5Km)

 富士山の御中道に愛鷹山の鋸岳や廃道など、危険箇所を含んだコースを歩くうちに、普通の縦走じゃ物足りなくなってきていた。
 住んでいる神奈川県には丹沢があり、初めての縦走ではこの主脈を南北に歩いた。ここにも地図には載らないバリエーション・ルートがきっとあるだろうと調べてみると、なんと100以上ものルートが存在した。

 これだけあると、どこから手を付けていいか分からない。選ぶのも面倒だし、どうせやるならと、一番難易度が高いドーガク尾根を歩いてみることにした。
 ルートは西丹沢の玄倉から敷地山、芋ノ沢ノ頭、大タル丸、女郎小屋ノ頭、モチコシノ頭まで歩き、そこから東沢に下って仲ノ沢経路で西丹沢県民の森、玄倉へと周回する内容。

 途中で残置ロープを使用して急斜面を上り下りする危険地帯を、2ヶ所通過しなければならない。それがこのコースのメインといったところ。
 日帰りで歩けるルートだが、道中には道標がほとんどないのがやや不安。地図読みやルート・ファインディングが出来ればそれも問題ないが、私はまだそれは出来ないので、通過ポイントなどは出来る限り細かく調べといた。

 車で行くことも可能だったが帰りにビールが飲みたいので、新松田駅からバスで玄倉へと向かう。そこから林道を歩いて立間大橋へ。橋は通行が規制されてゲートが閉まっていたので、乗り越えて進んだ。

 橋を渡ってすぐ右側にある注意看板の所から、林道を右に逸れて川へ下りる。大きな石を利用して川の対岸へ渡ると、その先に「ドーガク尾根入口」というプレートがある尾根取付があった。

 ここから尾根を上がり、東へ進んで敷地山へと向かう。途中には赤い脚立がある鹿除けの柵があったので、柵の右側の踏み跡を辿りながら登っていく。
 その先は剪定や伐採された森になったので、その際に作られただろう仕事道を進んで敷地山へ到着。ここからは北へ進んで芋ノ沢ノ頭へ向かう。

 白くザレた砂に覆われている細い尾根を登っていくと、所々壊れかけた緑色の古い鹿柵があった。この右側を歩きながらさらに登ると、尾根筋は敷地山までで見たものと同じ鹿柵に塞がれる。
 芋ノ沢ノ頭はこの鹿柵の中に囲われているようだが、踏み跡は鹿柵の手前から左側に伸びているので、柵を右に見ながらその踏み跡を進む。

 その後、急な傾斜を登りきるとワナバノ頭(標高936m)と思われるピークに。ここからアップダウンを繰り返し、ようやく白ザレのピークに到着。ここまでは順調に進んできた。
 この先からが今回のメインである危険箇所の始まり。まずは白ザレのピークから進んですぐにある、α形の木の根から右下へ進み、ロープを使って大タギリへと下降する。

 鞍部は狭かったが、両側は想像していたほど切れ落ちてはなかった。鞍部からは向かいにあるロープで今度は登り。傾斜がきついので、必要なのはほとんど腕力。
 下部は登り易いが、上部は岩の右側の窪みにはまると厄介という情報だったので、窪みにはまらないように登る。ロープの後も立ち木や根っ子を掴みながら厳しい傾斜。登りきるとその先は平尾根になり、しばらく進むと苔むした岩がある大タル丸に到着した。

 大タル丸の先にある鞍部で右の巻き道へ進み、次の難関である女郎小屋沢乗越へ向かう。ここには残置ロープがないと思っていたがあった。
 ただ、そのロープには手を掛けれる結び目がなかったので、頼れるのはここも腕力のみ。大タギリよりもさらに狭い鞍部に下りて、正面の崖をロープでクリアし、さらに登って女郎小屋ノ頭へと到着した。

 1週間程前に愛鷹山の鋸岳を経験していたからか、この2つの難所はそれ程怖さを感じず、意外と難なく通過することが出来た。
 女郎小屋ノ頭からは、北東の踏み跡を辿りモチコシノ頭へ向かう。そこまでに通過する2つの鞍部もやや難所だが、大タギリと女郎小屋乗越に比べれば楽という情報通り、大したことはなくモチコシノ頭へと着いた。

 次に向かうのは、モチコシノ頭から北に5分で着く東沢乗越。そこには注意看板があり、ここから白ザレの東沢を直接下降して折り返すように西へ進み、水源地へと進むはずだったが、ここから迷い始めた。
 情報通りに涸れた沢はあったのだが、注意看板がない。とにかく沢を下ってみたが、途中から高さがある岩場になって下りれなくなった。

 沢の底部には水が沸いてるのが見えたが、それは左側にあって東へと流れていた。目的の水源地なら沢は西へ向かうはずだし、下りる事も出来ないのでこれは違うはず。
 モチコシノ頭まで戻ると、少し先にもう一つピークが見えた。まだモチコシノ頭じゃなかったのかと、そちらに移動して同様に涸れた沢を見つけたが、そこにも看板がなかった。

 看板はなくなったのだろうと解釈し、その沢を下ってみると底部に小さな滝があった。ただそれも左側にあり、沢は東へと流れている。水源地は岩の隙間から湧き出てるはずなので、ここも違うはず。もうどこが東沢なのか分からなくなった。
 これはもしかしたら迷うかもしれないと、とにかくここで水を補給。飲んでみたが円やかでめちゃくちゃ美味い。だが落ち着いている場合じゃない。

 とにかく戻るのが面倒だったので、そこから東へと下ってみた。沢は徐々に水が増え、南へ向かっているよう。地図での判断だと、これは同角沢ではないかと思われた。
 地図上ではここを下っていけば、同角沢出合で玄倉林道には出れるが、沢がどうなってるか分からないし、登山道がある保障もない。それでもこれに賭けて進んでみたが、沢は途中で滝になって下る事が出来なくなった。

 滝を回避できないかと沢を逸れて右に登ってみたが、その先の尾根は急な下りになっていて怪しい雰囲気。このまま進んだらさらに状況が悪くなりそうだったので、山で迷ったら尾根に上がれという鉄則を守り、そこから急勾配の尾根を登ってピークに戻った。
 さほど沢を下ってなかったので、戻ったピークはモチコシノ頭。ひとまず分かる場所に戻れたので一安心したが、これからどうするかが問題になってきた。

 時刻はすでに15時半。東沢への道は分からないので、来た道を戻るしかない。たが、玄倉バス停までは4,5時間はかかるので、19時24分の最終バスにはもう間に合わない。おまけに既に疲れてるので、再び危険箇所を通過して戻る元気もない。
 残されたのは最良の選択肢は、ここで野宿して下山を翌日にすること。それがベストだったので仕方なくここで寝ていくことにした。

 ただ、こんな展開は予想もしてなかったので、テントはおろか寝袋の用意はしてない。水は沢で汲んだので問題ないが、食料の残りはパンが2つとカロリーメイトだけ。
 酒でもあれば長い夜の退屈凌ぎになったが、それもなし。おまけにライターのガスが切れてタバコも吸えない。明日の朝までこれから12時間はただ横になって、ラジオでオリンピックの実況中継を聞くしかなかった。

 着替えはあったので、汗だくの服からさっぱりは出来たが、夕方から冷えだしたので合羽を着る。脱いだ半ズボンを地面に敷き、その上に横になってバッグパックを枕にした。
 テントの中なら心配はないが、身を晒した野宿で怖いのは獣。抵抗出来る術はラジオを一晩中点けてる事だけ。不安より疲れが勝っていたが、夜の寒さがそれを妨げて熟睡する事は無理だった。


2日目 モチコシノ頭〜玄倉バス停 (所要:11時間半 距離:10Km)

 合計すれば2、3時間は眠ったのだろうが、寒くて何度も起きたので寝た気がしない。焚き火をしたくてもライターのガスが切れている。時計を見るとまだ3時頃。5時になれば明るくなって行動を開始出来るだろう。
 点けっぱなしのラジオはオリンピックの実況をしていた。やっていたのは金メダルを掛けたサッカー女子の日本対アメリカの決勝戦。これを聞きながら明るくなるのを待った。

 昨夜と今朝で残りのパンを食べたので、残っているのはカロリーメイトだけ。まあ今日の行動は6時間位なので、体力はどうにか持つだろう。
 来た道を戻るのはいいが、また危険箇所を通過するのが面倒くさい。まだ朝で時間があるので、もう一度東沢へ下りる道を探して進んでみた。

 昨日とは違う涸れた沢を下ると水源があった。沢も西へと流れている。今度こそ正解だろうと先へ進んで行ったが、沢は徐々に深くなり、また先へと下りることが出来ない。しかも、次第に南へと流れていた。
 これもまた間違い。もうこのルートから帰るのは諦めるしかない。これ以上迷ったら大変な事になるので、モチコシノ頭と思われる場所まで引き返した。

 朝に出発した時に素直に戻れば良かったものを、余計な事をした為に2時間のロス。体力もその分消耗した。再度モチコシノ頭から出発して女郎小屋ノ頭に向かったが、ここでまた道迷い。女郎小屋ノ頭から北西へ進まなければならないのに、そのまま尾根を南東に下ってしまった。

 急勾配をかなり下ってしまったので戻るのも一苦労。昨晩からパン2つしか食べてないので、登りのパワーが出ない。これがシャリバテというやつか。
 汗ばむのが嫌なので、服装はTシャツに短パン。膝下が露出しているので、休憩する度に蚊じゃない小さな虫に脹脛を刺され、痒くてしょうがない。おまけに汗を求めるハエが頭の周りでうるさく飛んでいる。そのせいでゆっくり休むことも出来ない。

 どうにか女郎小屋ノ頭まで戻って次は間違いなく進み、女郎小屋沢乗越と大タギリの危険箇所を慎重に通過し、白ザレのピークに到着。ここまで来れば後は危険箇所はないので心配もない。

 だが、この先でワナバノ頭に行くのにまた道を間違える。同じ道を戻るなんて予想もせず進んできたので、各ポイントの記憶も曖昧。それに反対方向からだと景色も変わるので、よく分からなくなる。

 おまけにそういう所に限って、似たような方向に別の尾根がある。途中で間違いに気付いたので良かったが、尾根を下りきっていたら面倒な事になっていた。
 最後の食料であるカロリーメイトでエネルギーを補給し、尾根を登ってワナバノ頭まで戻り芋ノ沢ノ頭へと向かうと、また紛らわしい分岐。

 そのまま直進すると少し先に鹿柵があった。昨日登ってくる時は芋ノ沢ノ頭の手前で鹿柵を左に進んだので、ここだろうと下ってみたが、どうも記憶にない景色ばかり。
 デジカメで撮っていた写真と見比べてもやはり違う。よく考えたら芋ノ沢ノ頭のピークは柵で囲われて見えなかったし、ここはまだ標高も高かった。寝不足の為に思考が鈍ってるようだ。

 どう考えてもその分岐は右の尾根を下るはずなので、不安ながらそちらへ進む。しばらく下ると見覚えのある芋ノ沢ノ頭の鹿柵が現れ、道が正しいことが分かって一安心。
 そのまま順調に敷地山まで下り、行きに休んだ「水源地の森林」という柱の横に倒れてる木で小休止。だが、ここにも分岐があった。残りの水は500ccしかなく、体力も底を突いてるのでもう迷えない。

 ここから西へと下れば尾根取付に戻るはずだが、どちらも西の方へ進んでいる。直進する先には赤い脚立や鹿柵があった。敷地山までにそういう場所があった記憶はあるが、デジカメの写真で時間を調べると、そこはここから40分の場所でこんなに近くない。
 ひとまず右の尾根を進んでみたが、急な下りで歩いた記憶もない。もう一度デジカメを調べると、敷地山から柵までは剪定や伐採された森を通過していた。

 これまた間違いだと引き返して脚立がある方へ進み、そちらから西へと下っていくと、剪定や伐採された森があった。これでもう間違いない。そのまま安心して進み、ようやく尾根取付まで下山出来た。
 到着したのは15時半。さんざん迷ったので、朝5時に出発してから8時間半も掛かった。最後の方でもう一度間違えて迷っていたら、水も体力も尽きて、もう動く気力も無くなっただろう。

 川で汗を流した後、立間大橋から林道を歩いて玄倉バス停まで戻った。バスが1時間待ちだったのでビールで疲れを癒したかったが、バス停横の商店には売ってない。ライターは売っていたので、久しぶりにタバコを吸って安堵と共に煙を吐き出した。

 この日は丹沢湖で花火大会があり、バス停の向かいが臨時駐車場になっていた。ここからシャトルバスがここから会場まで運行していたので、それに乗る客がひっきりなしに来て、バス停にはやたらに人が多かった。
 こっちはそんなお祭り気分じゃなく、火が消えた線香花火のようなもの。ビールを飲みながら飯を食って、早くエネルギーを回復したいだけだった。

 今回の縦走は意外な展開になり、肉体的にも精神的にも疲れた。通過した危険箇所はそれ程のものではなかったので、歩くだけなら難易度が高いとは感じなかった。
 おそらく、その高さはルート・ファインディングの必要性なども含んだ意味だったのだろう。今回の経験で山を甘く見ちゃいけないと初めて痛感した。

 帰宅後に迷った辺りを調べたところ、女郎小屋沢乗越から北に沢を下れば東沢へと出れるルートがあった。知っていればそこを通ることが出来たのだが。
 さらに、記録していた軌跡を見ると、野宿したピークは最初にモチコシノ頭と思った場所より南に位置しており、調べるとそこは裸山丸だった。

 持っていた簡易地図には裸山丸は載ってなかったので、そんな事は知る由もなかった。違う場所でルートを探していたのだから、見つかるわけが無い。道に迷ったというよりも、そもそも下調べが甘かったのが原因だった。
 ルートの事はもちろん、今後は万が一に備えて持ち物もしっかりと準備し、ビバーク方法も覚えなければならないと知らされた。




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