小宇宙の京都 (京都) 2009年1月3日


 海外ではドミトリーがある安宿に何度も泊ったことがある。しかし、日本でその手の宿に泊ったことはない。そこで、どんな雰囲気なのかを味わいたかったので、京都では車内泊ではなく、御所近くにある老舗安宿に泊ることにした。

 料金はドミトリーで一泊2千円。京都の中心にこの安さで泊れるのだから驚きだ。建物は京都の町家を利用した造りなので、外人だけでなく日本人でも楽しめる趣といったところ。宿には共同キッチンもあるので自炊も出来る。

 この時の宿泊客は10人位いただろうか。数泊の者から長期滞在者、数人の外人と多種多様の人間が泊まっていた。私が話したのはオーストラリアに住むイスラエル人の若いカップル。日本の各地を旅行中で、既に方々を回っているようだった。

 この安宿を拠点にして京都観光へと繰り出し、初詣を兼ねて八坂神社を訪れた。神社は正月だったためか、歩くのも大変な程の混雑。
 境内にはいくつもの神様が祭られており、中に一つだけ女の行列ができていた場所があった。よく見ればそこは美容の神を祀る美御前社。なるほどと納得したと同時に、並んでまで美しくなりたいと祈る女たちの心境が可愛く思えた。

 美人の宗像三女神が祀られるこの神社の前には、肌の美容にいいとされる「美容水」が湧き出ており、「美守り(うつくしまもり)」という美の御利益をもたらす御守りも売られている徹底振り。舞妓たちもここにお参りにくるのだとか。

 その舞妓か芸子が見れないかと祇園を散策していると、本物か体験で衣装着てるだけの者なのかは分からないが、運良く出会うことができた。京都の街にはこの姿の女が本当にしっくりくる。

 ちなみに舞妓とは芸子になるために修行をしている見習いの者。近年は「一見さんお断り」の閉鎖的空間であった花街も、徐々に門戸を開いているというので、いつかお座敷遊びというものを体験してみたいものだ。

 京都には過去に何度も来た事があるが、中でも好きな場所は「哲学の道」。ここは銀閣寺から南禅寺までを結ぶ2km程の小道で、京都でも代表的な散歩道。大正時代の哲学者である西田幾太郎らが好んで散策したことから、このような名が付けられたようだ。

 道中には京都名物の八つ橋を売る店や茶屋などがある。目を引いたのが反物を売る店に飾られていた、カラフルな刺繍を施したジーパン。芸子のような和服姿の女と花が描かれたそのジーパンの料金がなんと38万。誰かしら買う人間がいるのだろう。

 市バスに乗って渡月橋の近くにある竹林の通りへ向かった。この通りもいかにも日本という趣があっていい。神奈川県の鎌倉にもいるが、京都にも観光客を乗せる人力車がいて、この竹林の通りでも見掛けた。
 安宿に泊っていた地元出身のばあさんの話では、人力車を取り仕切っているのはヤクザらしい。

 渡月橋がる嵐山からトロッコ列車に乗って渓谷へ上がり、帰りは保津川の川下りで戻るという自然を満喫できる観光コースがあるらしい。
 埼玉県の長瀞で川下りをしたことがあるが、京都にも川下りがあるとは知らなかった。冬は寒そうだが、紅葉の秋などにそれを楽しむのは味わいがありそうだ。

 静寂の小宇宙を味わおうと龍安寺の石庭へ。中国の山水の世界を日本人の感性で写した「枯山水」の庭は、水を感じさせるために水を抜くということが特徴。
 敷地に白砂を敷き詰めて帚目を付けただけのシンプルな庭なのだが、いつ眺めても不思議な魅力がる。

 15個の石は庭をどこから眺めても、必ず1個は他の石に隠れて見えないように設計されているという。だが、中の部屋から1ヶ所だけ全ての石が見える位置があるらしい。龍安寺には西の庭と呼ばれている庭もあるが、そしれ一般公開はしてないようだ。

 枯山水を眺めて喉が枯れたので電車に乗って安宿に戻り、宿泊者たちと会話しながら焼酎で喉を潤した。酔っていく頭の中は小宇宙を超えて焼酎だけになり、残像の中の石庭には15個どころか、何十個もの石が転がって見えた。




Copyright (C) 2019 諸行無常 All Rights Reserved