祈る人々 (カニャークマリ) 2003年3月8日〜9日


 カニャークマリへ到着する前の町で、バスが全然進まなくなった。事故でもあったのかと窓から渋滞の先を見てみると、そこでは大勢の女たちがプラカードを持ちながら交差点を行進していた。デモか何かの集会だったのだろうか。
 長距離バスではパンクや故障で立ち往生するのを何度も経験していたので、これくらいの事はもはや日常的なこと。気長にバスが動き出すのを待った。

 インド最南端のカニャークマリは、ベンガル湾、インド洋、アラビア海の3つに囲まれている。その為、カニャークマリまでの一直線の道は、正面にも左右にも海が見渡せる壮大な景色だった。

 到着した時刻は夕暮れ時に近かったので、宿に荷物を置いて早速ビーチに夕陽を見に行った。カニャークマリはヒンドゥー教の者たちにとっては、有数の巡礼地としても重要な場所。ここで祈りや沐浴をするためにインド各地から多くの人が訪れるので、浜は大勢の人間で賑わっていた。

 夕陽を見ている時、子供のグループを連れたインド人の一行が横にいた。子供たちは夕陽を眺めるのではなく私を眺めている。そこには好奇心と警戒心が混ざっていた。
 きっと田舎から家族総出でここに来たのだろう。日本人の顔など今まで見た事がないに違いない。不思議なものを見るようなその眼差しが、すごく印象深かった。

 海岸の目の前には19世紀の宗教改革者であるヴィヴェーカナンダの巨大な像と、記念堂があるヴィヴェーカーナンダ岩がある。これは彼がここで最後の悟りを開いたことを記念して造られた建築物。
 記念堂まではフェリーに乗って行くのだが、この時は波が荒くて船が凄く揺れた。その度にインド人たちが歓声や雄叫びを上げて楽しんでるのが面白かった。

 ヴィヴェーカナンダ記念堂には瞑想室もあった。薄暗い部屋の中にシヴァだかオームだかの文字だけが光っており、独特の雰囲気を醸し出していた。
 この部屋だけは子供たちも騒がずにいたので、よほど神聖な場所だったのだろう。ここでは実際に胡座をかいて瞑想をする人々もいた。

 ヴィヴェーカナンダがこの地で瞑想している時に、母なるインドの永遠の遺産に目覚め、ラーマクリシュナの使命を完遂する計画を描いたそうだ。そして、ラーマクリシュナの意思を継いで、ラーマクリシュナ・ミッション(伝道会)を創設したという。

 カニャークマリは日の出の時間が最も賑わう。どこからこんなに人が集まって来たのかと思うほど、早朝の海岸は日の出を待つ者たちでごった返していた。
 誰もが待ち望む太陽が現れると、拍手や歓声が沸き起こった。太陽に手を合わせて祈る人々たち。その姿はとても美しかった。




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