ゴールド・タウン (ジャイサルメール) 2003年2月6日〜9日


 インドの西に位置するラジャスターン州のジャイサルメール。砂漠が近いこの町の建物は全て薄茶色をしており、町全体が黄金のように見えることから、別名ゴールド・タウンと呼ばれている。

 城壁に囲われた市街地には石造りの家が建ち並び、城内には装飾的なジャイナ教の寺院が建ち並んでいる。
 町外れのサンセット・ポイントからは、町全体の外観がよく見えた。その姿は宇宙要塞のようで、まさに薄茶色一色。ゴールド・タウンと呼ばれているのがよく分かる。

 この町を訪れたのは、キャメル・サファリというツアーに参加するのが目的。内容はラクダに乗りながら2泊3日の行程で砂漠を横断するというもの。
 そんなツアーで内容よりも印象に残ったのは、ー行を引き連れる4人のキャメル・ガイドたち。こいつらが癖のある連中で、何よりも忘れ難い思い出をくれた。

 ツアーのグループは10人程で、いろんな国からの旅行者たち。町から車で1時間ほど走った場所からラクダに乗り換えてツアーは始まった。
 荒涼とした砂漠の中を、ラクダの背に揺られながらのんびりと進んでいく。時おり見かけるジプシーの女たちは、頭の上に枝や水甕を乗せて歩いていた。
 通過していく小さな町には大きな給水タンクがあり、水を汲む砂漠の民の姿もあった。道中には山羊だか牛だかの屍や骨も転がっていた。

 ラクダに乗るのは初めてだったので楽しくはあったが、はっきり言って乗り心地は悪い。一日中乗っているのは尚の事だ。ツアーの連中も同様だったのか、時々ラクダから降りて歩く者が多かった。
 夕暮れ前に寝場所のサム砂丘に到着。砂漠なので建物があるわけじゃない。砂の上で寝袋にくるまって眠るのだ。

 ツアー料金にはガイドの一団が料理する食事代が含まれている。しかし、ガイドたちは今晩のメインディッシュに山羊肉を食べないかと提案してきた。もし食べたいのであれば1人100ルピーづつの追加料金を払ってもらう事になると言う。

 騙されているような気もしたが、誰も反対する者はいないので結局食べる事になった。山羊は近くの町から買って来ると言っていたが、その辺には野良山羊がいくらでもいたので、きっとそれを捕まえてきたはずだ。
 山羊を殺すところを見たい奴はこっちへ来てみろというので、好奇心旺盛な私は見に行ったが、他の者は誰も来なかった。

 ガイドたちが山羊を殺すその手捌きはなんとも淡々としていた。ナイフで喉元をひと切りして血を絞り出し、体の皮を綺麗に剥いでいく。まるで寿司屋の主人が魚を3枚に下ろしているかのようだった。

 捌かれた肉がツアー客の一人ずつに渡されたが、焼くのは自分たち。その辺に落ちている枝を拾い、肉を刺して焚き火で焼けという。
 刺しているのが枝なので、肉を焼いていると枝も焼けてしまう。うまく焼けないので、焚き火に肉を投げ入れて直接焼く者も少なくなかった。

 食事に使う皿はガイドたちが用意していたが、彼らは皿を洗うのに水など使わず、砂を擦りながら汚れを落としていた。翌日も我々が使う皿である。衛生なんていう言葉は、ここではとっくの昔に砂の下に埋もれているのだろう。

 次の晩の勧めは動物肉ではなく、ラクダレースの観賞だった。もちろん無料ではない。一人だったらもちろん断るが、これはツアーで団体行動。観賞料金は少々の金額だったが、希望者がいたので多数決で見る羽目になった。一日中のろのろと歩いているラクダが馬のように早く走れることは、確かに驚きだった。

 それよりも驚いたのは、ツアー終了時にガイドたちがチップを要求したことだ。客の数人はチップを払ってあげていたが、私は一切やらなかった。
 チップを出さない私にガイドたちは、それでは代わりに何か物をくれと言ってきた。この厚かましさにはチップや物はおろか、言葉も出なくなった。

 砂漠のラクダツアーに行ってみて一番印象的だったのは、景色とか何よりもこのガイドたちである。ゴールド・タウンのジャイサルメール。町も砂漠もガイドもみな、その名の通りにゴールド(金)で一色だった。




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