クロコダイル・ダンディー (カジュラホ) 2003年1月25日〜27日


 世界遺産の建造物があることで有名なカジュラホには、いくつもの古い寺院が点在している。その中でも特に知られているのは、男女が交わるレリーフの彫刻だろう。
 確かに素晴らしくはあるが、ずっと眺めていても飽きてくる。こういう事は見るよりはする方がいい。

 カジュラホではそんな世界遺産よりも印象に残っていることがある。それは、町から20km離れたレネアの滝までレンタルの自転車で行った事。
 サイクリングといっても、利用したのはマウンテンバイクのような上等なものではない。昔の日本で新聞配達が乗っていたようなギアもない代物である。

 自転車はオールドだったが、田園風景の中ですれ違う時に手を振ってくる地元民たちはフレンドだった。デリーやジャイプルの都会ではしつこいインド人ばかりだったので、こういう触れ合いは心を和やかにしてくれる。

 レネアの滝は期待していたほどの迫力ではなかったが、周辺の景色は岩肌が剥き出した崖が広がっていて、まるで原始の地球の姿を見ているようだった。
 そんな景色を見ながら太古の気分に浸っていると、ガイドと称する男がやって来て話を持ちかけてきた。

 その内容は、ここからさらに奥へ行った所で、ワニなどの野生動物が見れる。自転車じゃ遠いし危険だから、バイクで乗せてってやるというもの。こういった親切の先には金のせびりが待っているだけなので、ほっといてくれと断った。

 怪しいガイドは振り払ったが、野生動物が見れるという話は気になる。危険と言ったのは大げさなだけで、まさか人食いライオンが出るわけでもあるまい。何が出てくるか分からないが、とりあえず奥まで行ってみることにした。

 滝までの平坦なアスファルト道とは違い、こっちはアップダウンのあるダート道。モトクロスのレースでもしているような気分だが、乗っているのは新聞配達の自転車。
 しばらく進んで目撃した猿には何の感動もなかったが、目の前を横切った何頭もの馬には驚いた。その後はライオンが出てくる気配はなく、新聞を待っている者などもいない。男が言っていた危険はまったく見当たらなかった。

 ダート道を抜けて奥まで行くと、ワニが見られるポイントと思われる展望台があった。そこから川を眺めてみたが、ワニが現れる気配はまるで無い。
 近くに土木工事をしている作業員がいたので聞いてみると、ワニが見れるのは朝早くだけだというい。

 残念ながらワニにはお目にかかれなかったが、ダート道のサイクリングは満足できた。それに、この辺りはレネアの滝の周辺よりも、さらに迫力がある大自然の景色。ワニはいなくても、気分はまさにクロコダイル・ダンディーだった。

 ダンディーといえば酒が付きもの。ささやかな冒険の余韻に浸るには、何といっても祝杯が一番。その至福の時を早く味わおうと、宿までの20kmの道のりを新聞配達人のように疾走して帰った。
 部屋で飲んだラム酒の味はいつになく格別であり、今夜の酔いはペダルを漕いでいた足のように早かった。




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