離島へ出発 2009年6月19日


「日本の秘境100選」というものがある。これは1989年にJTBが雑誌「旅」の創刊750号目を記念して開いたシンポジウムにおいて、岡田喜秋、C・W・ニコル、立松和平、辺見じゅん、椎名誠によって選定された日本各地の秘境だ。

 その中に、伊豆諸島の最南端にある青ヶ島という島が含まれていた。伊豆諸島には三宅島や八丈島があることは知っていたが、青ヶ島は一度も耳にしたことがなかった。
 興味が沸いたので調べてみると、島は周囲約9kmの火山島で人口は僅か200人足らず。島内の住所は全て「青ヶ島村無番地」と、どの家にも番地がない。

 アクセスは隣の八丈島からの船かヘリコプターのみ。おまけに船の就航率が6割に満たない。それは、島の港が断崖にあるので、少しでも海が荒れると着岸出来ずに欠航となるためだ。

 人口の少なさに無番地というローカルさ。アクセスも安易ではない離島。そして、最近会社を離党した私は自由の身。時期が梅雨に入っていたが、行くなら今しかない。旅の神様からの啓示が聞こえた私は、自転車を持って八丈島と青ヶ島に行くことにした。

 出発事前に二つの島の情報を収集していたところ、青ヶ島へのフェリーは旅客のみで、車やバイク、自転車などは積めないという事を知った。さすが秘境と言われるだけある。残念な気持ちの反面、やはりそうでなくてはという嬉しさもあった。

 青ヶ島はそれ程大きくないので徒歩でもいいが、八丈島は自転車があった方が何かと便利。というわけで、青ヶ島渡航時には自転車は八丈島に置いていく計画に変更し、フェリーが出発する東京の竹芝桟橋へ自転車で向かった。

 フェリーが出発するまでにターミナルの土産屋を覗いてみると、なんとそこには伊豆諸島の島々の特産品が売ってるではないか。これには少々がっかりだ。行かずとも買えたり、行く前に知ってしまったりすると、楽しみも半減するってもんだ。

 週末で乗客が多かったためか、購入した2等室は和室ではなく椅子席だった。リクライニングは効くが、あまり熟睡できそうな座り心地ではない。
 フェリー内に売られていた飲食物の料金はリーズナブル。携帯の充電器が売られていたのは現代的だった。有料のシャワー室もあり、シャワーセットなども売られていた。

 フェリーは三宅島、御蔵島を経て八丈島に行く。三宅島は過去に訪れたことがあるが、御蔵島はない。ついでだから帰りにでも寄ろうとしたが、船内にあった観光ガイドによると、御蔵島はキャンプ禁止とのこと。
 都会の真ん中にある公園じゃあるまいし、何も島をキャンプ禁止にしなくてもいいのに。基本テント暮らしの私なので、仕方なく御蔵島は諦めることにした。

 旅といえば出会いも楽しみの一つ。私の席の近くには外人の若い女が座っており、見たところ一人の様子だった。経由していった島でも下船しなかったので目的地は同じ。このチャンスを逃すまいと、八丈島での下船時に声を掛けてみた。

 彼女はアメリカのワシントンから来たイスラエル人で、日本の各地を旅していた。八丈島ではホテルに泊るのかと聞くと、テントを持ってるのでキャンプするという。キャンプ地は一つしかないので、行き先は同じ場所。声を掛けといて正解だ。

 フェリーが到着したのは島の西側にある八重根港。目的地である無料キャンプの底土野営場は、反対側の底土港の近くにある。行き方が分からないだろうと、彼女にアクセスの方法を色々と教えた。タクシーだと2000円くらい、バスは本数が少なく待ち時間が長い、歩くと5kmど。彼女がチョイスしたの徒歩だった。

 自転車の私は彼女よりも一足先に底土野営場に到着。このキャンプ場は無料だが、役場に使用許可を取らなければならなかった。まあ無断で使用しても問題はないのだろうが、数日間滞在するので面倒が起きても困ると、役場に電話して許可の申請をした。

 対応したおばちゃんは、役場に来てカードに名前などを記入しろという。電話で言うから書いてくれと説得したが、途中から電波が悪くて聞こえないなどと言い出す。アンテナは3本立ってるし、さっきまで普通に話してたのに。ありゃ絶対とぼけていたに違いない。
 仕方ないので3km離れた役場まで出向き、カードに記入することになった。ついでにイスラエル人の彼女の事も伝えといてあげた。

 底土野営場は適度に広い芝生の広場で、真横は海というロケーション。さらにトイレ、シャワー、調理場も完備されていた。近くには酒や土産を売る商店もあるので何かと便利。キャンプ場を使用していたのは数人だったので、のんびりもできそうだった。

 昼飯を作りながら休んでいると、イスラエルの彼女も到着。テントを立てるとすぐに、彼女は八丈富士のトレッキングに行くと出掛けていった。相変わらずタフな女だ。
 心配していた雨も降らずこの日は快晴で、島のシンボルでもあるその八丈富士もここからばっちり見える。そんな底土野営場を寝床にして、数日間の離島暮らしを始めた。


[ 前へ ]  [ 目次 ]  [ 次へ ]


Copyright (C) 2019 諸行無常 All Rights Reserved