暑さのあまりに (広州) 2009年8月23日


 陽朔から乗ったバスが広州で到着したのは、市郊外にある抗口というバスターミナル。周辺で安宿を探したが、どこにも見当たらない。幸い地下鉄の駅が近くにあったので、とりあえず中心にある広州東駅に移動した。

 駅に到着後、宿探しの前に次の目的地である永定行きの列車を調べると、その晩の19時に便があった。おまけに駅に荷物を預けられたので、広州には宿泊せずに半日観光のスケジュールを組むことにした。

 これまで中国で訪れた町で見掛けた外資形チェーン店といえば、ケンタッキーかマクドナルドくらいだった。大都市の広州ではその2店に加え、スターバックス、セブンイレブン、サークルK、ファミリーマートなど、日本でもよく目にする店が多くあった。
 そんな店が並ぶ中で中国らしさを感じたのは、「真功夫」というブルース・リーを使用した店や、「李先生」という店だった。

 若者に人気の上下九路という通りの周辺もかなりの賑わいで、ローマ字の横文字も多く広告看板には西洋人が起用されていた。
 道路ではクラクションもあまり鳴り響かず、車もスムーズに流れている。町には綺麗で痰を吐く者もそれ程見掛けず、今まで訪れてきた町とは大違い。広州には私が感じてきた中国がほとんどなく、まるで別の国に来た感すらがあった。

 陽朔から広州に来る前に、連山チワン族ヤオ族自治県に行きたかったのだが、バスがなかったので諦めて広州へ来た。
 雲南省から少数民族の村をいくつか訪れてきたが、ここから先はもう民族の自治県はない。民族の村が見れなくなったので、代わりに中国ならではのものを見に行くことにした。それは中国の代表的な動物のパンダだ。

 そのパンダがいる広州動物園には、アムール虎やレッサーパンダなどの希少動物もいたのだが、私の目的は普通のパンダだけ。他には目もくれず、一目散にパンダがいる場所を目指した。

 パンダの檻を探していると、大勢の子供で賑わうプールを目にした。水遊びをしてるのかと覗いたら、なんとプールで金魚すくいをしてる。それも日本の縁日のようなすくい紙を使うのではなく、風呂桶ですくっていたのだ。
 これには情緒もへったくれも感じず、ただ中国らしさを感じた。それでも子供たちは夢中になって金魚を追い掛け回していた。

 連日35度以上の猛暑が続いており、この日もかなりの暑さだった。吹き出る汗を拭いながらパンダの檻に来てみると、主役のパンダが見当たらない。代わりに目に付いたのは檻に掛けられた札。

 漢字が書かれたその札を読んでみると、「この暑さのため、パンダは空調室にいます」などと書いてある。どういうことだと檻の奥をよく見てみると、なんと目的のパンダが大きな氷塊の横でうつ伏せに。私はその有様を見て、思わず目を白黒させた。

 おいおい、ちょっと待て。横になって休憩したいのはこっちの方だぞ。この糞暑い中で金まで払ってわざわざお前を見に来たというのに、なんだその態度は。いくら暑いからとはいえ客が来てるんだ。無理してでも起き上がって、笹のひとつでも食って見せんかい。

 氷塊の横でだらしなくうつ伏せになるこのパンダには、凛々とした態度などまったくなく、爛々と太陽が私に降り注いでいただけ。
 かつて東京上野動物園を賑わしたリンリンとランランなどとは程遠い存在だ。こんなパンダの姿を見るとは予想もしなかった。

 予想外の展開といえば、日本から送られたカメラもそうだ。計画では広州でそのカメラを手にするはずだったが、行方不明になってしまったのだ。
 仮にそれが受け取れていて、ここへ来ていたとしよう。この暑さでこのパンダだ。きっと異常を起こし、撮影した写真は全てモノクロだった。そんなハプニングが起きただろう。




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