序章


 小学校の同窓会に出席するため、父親が故郷の福岡県に行くことになった。会だけ出席してとんぼ返りするのはつまらないので、生まれて5歳まで過ごした山口県の笠戸島を訪れたいと言う。そこで、暇を持て余している私に呼び声が掛かった。
 父親が私に望んでいたのは、60数年振りに訪れる笠戸島への旅の手配。その後は自分も好きな所を旅行すればいいじゃないかと言うので、一緒に行くことにした。

 話が持ち上がったのは出発する1ヶ月前。笠戸島までの旅の計画と手配をしながら、私はその後にどこに行こうかと考えていた。
 九州や西日本各地の観光名所は過去に訪れてるので、特に行きたい場所がない。行きたいとすれば、まだ未踏である能登半島周辺の石川県や福井県だけ。

 どこへ行くにしろ自由に動ける足があった方が便利。そこで頭に浮かんだのが、一月前に買った原付バイクのスーパーカブ。通勤用に購入したものだが、いずれバイク旅をしようと、既にかごやボックスを搭載して旅使用に仕上げていた。
「遂にその時が来たぞと」と旅の神から啓示を受けた私は、原付をフェリーに乗せて福岡まで行ける事に気が付いた。

 父親とは福岡で合流すれば笠戸島への旅行は問題ない。だが、それは11月下旬なので、その後にバイクでどこを旅するにも寒いし、まだその日まで一ヶ月も時間がある。
 ならば自分の旅行はまだ暖かい内の先にしようと、自宅の神奈川から福岡まで原付バイクで旅することにした。

 簡単に考えて神奈川から福岡までは、国道1号線と2号線を走れば行くことが出来る。長い道のりを自転車で走るなら自力の達成感があるが、バイクでただ走るというのは単調で飽きるはず。

 何か目的があればその道中も面白くなるだろうと、「国道1号線」「東海道」のキーワードで思い出したのが東海道五十三次。その単語を検索して繋がったのが、歌川広重の代表作「東海道五十三次」の絵だった。

 その絵を描いたと思われる場所や宿場を巡れば、東京の日本橋から京都の三条大橋まで行く事が出来る。1号線に宿場があるなら2号線もあるはずだと調べると、西国街道(もしくは山陽道)という名前で五十数ヶ所の宿場があった。
 こちらは京都の東寺から山口県の下関を繋ぐ街道。この2つを走れば飽きることなく福岡まで行ける。まさにぴったりの目的だと、ここで旅のプランがまとまった。

 福岡までは大雑把に計算して約1000km。原付はスピードが出せないので、移動は1日に100〜150kmがいいとこ。旅の日数は大体10日間になるので、父親との合流を考えると出発は2週間後。

 だが頭の中は既にバイク旅で一色になってるので、今すぐにでも出発したい気分。そこで、どうせ九州まで行くのだからさらに南下して、母親の生まれ故郷である奄美大島に行くことも思い付いた。

 奄美大島へ行くには鹿児島からフェリーになる。そこまで南下するならいっそのこと九州も一周してしまおうと、さらに旅の計画が膨れ上がった。九州一周と奄美滞在に要する日数は大体2週間なので、余っている日数にも丁度いい。

 九州一周も何かないかと調べると、四国と同様の八十八ヶ所巡りがある事を発見。これまた面白そうなぴったりのルート。
 ここで全てのパズルが見事に組み合わさり、壮大な旅のプランが完成。そして準備を整えた3日後に、スーパーカブに乗ってスタート地点の東京日本橋へと向かった。


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