金時山縦走 (距離:24.4Km) 2012年6月18日〜19日


1日目
9:50 強羅駅
10:15 明星ヶ岳登山口
11:30 明星ヶ岳
12:25 分岐
13:10 明神ヶ岳
14:15 火打石岳
15:20 仙石原分岐
16:25 金時山

[ この登山の軌跡 ]

2日目
5:00 金時山
5:40 猪鼻砦峠
6:30 足柄峠
7:50 遊女の滝
8:40 駿河小山駅







1日目 強羅駅〜金時山 (所要:6時間半 距離:13.1Km)

 重荷を背負った縦走にも慣れ、酷い筋肉痛も少なくなってきた。次はどこを歩こうかとルートを考えるのも楽しい。
 私が住んでいる神奈川県に山は結構あるが、登ったことがあるのは少ない。そこで、今回は箱根外輪山の最高峰である金時山を目標にして、1泊2日の縦走を計画した。

 スタートは箱根登山鉄道の強羅駅で、そこから明星ヶ岳へ上がる。そして、明神ヶ岳を経て金時山に行き、北側の足柄峠へ下山してゴールの駿河小山駅を目指す。
 キャンプ予定地は金時山の先にある猪鼻砦峠。今回は水場がまったくなさそうなので、水を4リットル持っていくことに。その為、いつもより若干荷物が重くなった。

 箱根は何度も訪れた事があるが、登山鉄道に乗るのは久しぶり。ちょうど紫陽花の開花の時期で、線路脇には色とりどりの紫陽花が咲いていた。この鉄道に「あじさい電車」という愛称があるのは知らなかった。
 強羅駅から目指す明星ヶ岳を見ると、山頂に「大」の文字が。京都の名物行事である大文字焼きは知っていたが、それがこの箱根にもあるとはこれまた知らなかった。

 強羅駅から明星ヶ岳登山口までは徒歩30分。行き方は駅前の観光案内所で教えてもらった。天気は曇りで、おまけに山頂はガスってる。あまり景色は期待できそうにない。
 登山口から明星ヶ岳頂上までは1時間。勾配のきつい道を登る。歩くのには慣れたが、やはり重荷を背負った登りはいつでも辛い。

 大文字焼の部分からは景色が眺められたが、頂上には小さな神社があっただけで、周囲の景色はまったく見えなかった。
 明星ヶ岳頂上からはしばらく歩き易い道に。新緑の時期なので、草が茂って道が隠れてる部分もあった。黒アゲハやモンシロチョウも多く見られ、のどかに花の蜜を吸っていた。

 明神ヶ岳の手前からは、石も増えてだんだん上りに。曇ってるがかなり蒸し暑く、タオルが絞れるくらいに汗を掻きながら明神ヶ岳に到着。
 晴れた日なら富士山がよく見えるのだろうが、ガスってるので遠くの山はほとんど見えない。山の一部分が削れたようになってる、箱根の大涌谷はよく見えた。

 明神ヶ岳からは景色が開け、歩き易い尾根になる。火打石岳までは下りで、ここからまた徐々に上り。矢倉沢峠の辺りでまた景色が一気に開け、目前に金時山がそびえる。そこから見ただけでも、かなりの勾配を登らなければならない事が分かる。

 仙石原との分岐には茶屋があったが閉店。ここには少しスペースがあったので、テントを張ることは可能だろう。だが私の目的地はまだ先。ここから金時山頂上までは40分。岩場になった急勾配で汗を噴出しながら、ようやく頂上に到着。

 頂上には茶屋が2軒あったが、到着したのが16時半だった為かどちらも閉まっていた。おそらく、早い時間や夏場なら営業してるのだろう。
 狭い頂上にはテーブルやイスが多くあり、公衆便所もあった。ここでのキャンプは無理だと思っていたが、テントが張れるスペースが2ヶ所だけあった。先へ進むのも疲れたし茶屋もやってないので、予定を変更してここに泊まる事にした。

 夕方前には太陽が見え隠れしてガスもなくなり、頂上からは箱根山や芦ノ湖がよく見えた。さらに、数分間だけだが富士山も見ることが出来た。これらの景色をつまみに一杯やるのは最高のご褒美。重荷を背負って歩いてきたのが報われる瞬間でもある。


2日目 金時山〜駿河小山駅 (所要:3時間半 距離:11.3Km)

 4時に起床して出発の準備をしている間に、4人も登山者がやってきた。この時間に頂上に来るのだから、もっと早くにスタートしてるのだろう。少々驚きだ。
 そんな登山者の他に、腹を空かせたような猫も一匹やって来た。山の上に猫がいるとは、これまた驚き。茶屋の人間が餌付けでもしてるのだろうか。飯をくれとミャーミャーなくので、食パンを少し分けてやった。

 台風4号が沖縄に上陸していたが、関東に来るのは夕方頃。駿河小山駅までは約4時間なので、雨が降る前に到着出来るだろう。
 持ってきた水は残り1リットルになっていたが、ここからは下るだけ。曇って涼しいので、汗もそんな掻かないので丁度いいはず。

 頂上を5時に出発し、鉄製の階段がある急勾配を下っていく。当初にキャンプを予定していた猪鼻砦峠辺りからは、車が通れるような幅の林道になった。平地も多くあったので、やはり目を付けた通りここでのキャンプは可能だった。
 林道をしばらく下るとゲートがあり、その横には車が何台か駐車していた。既に数人とすれ違っていたので、その者たちは車でここまで来たのだろう。

 砂利の林道はアスファルトに変わり、しばらく歩くと足柄城址がある足柄峠に到着。近くには熊に跨った金太郎の石像がある足柄山聖天堂があり、茶屋やトイレ、自動販売機などもあった。

 金時山から駿河小山駅までは富士箱根トレイルの一部のようで、全体図が乗っている地図もあった。トレイルは金時山から富士山五合目までを結ぶ約42kmのルート。私は山登りはするが、さすがに走る気にはなれない。

 しばらくアスファルトの上を歩いていたが、万葉公園から再び山道に入る。入口には平成23年に熊が目撃されたとの情報が。鉞も熊除けの鈴も持ってないので、口笛を吹いたり、長い枝を持って音を立てながら下っていく。
 山道は20分程だけで再び林道になったが、通り抜けが出来ない林道なので、車が走ってくることはない。

 1時間程歩いて、金太郎ゆかりの地である遊女の滝に到着。看板に「大澤古道」と書かれていたので、この林道は古くからあるのだろう。滝はまあまあのものだった。
 さらに林道を下り東名高速の高架橋を越えると、田んぼのある集落が現れた。そこからはアスファルトを歩きながら、ゴールの駿河小山駅に到着。

 途中ですれ違った登山者に、御殿場線は1時間に1本しかないと聞いていた。駅に到着して時刻表を見ると、6分前に電車は出発。1時間待ちを余儀なくされたので、近くの酒屋でビールを買って、駅前の観光案内所でくつろいだ。

 近くに「わさび漬け」を売る店もあったので覗いてみた。わさび漬けはわさびの根や茎をみじん切りにして、塩漬にしてから熟成させた漬物。伊豆周辺で有名のようだが、この辺りでも富士山の天然水を利用して生産しているという。
 買い物しながら店主に聞いたのは、金時山頂上の茶屋は「金時娘」という有名な婆ちゃんがやっているということ。私が訪れた時は閉まっていたので知る由もなかった。

 帰ってから調べてみると、その金時娘は小宮山妙子さんという方。13歳の時に父親の経営する小屋の手伝いを始め、18歳の時に父親が事故で亡くなって以来、現在まで1人で茶屋を切り盛りしており、登山者達に「金時娘」と呼ばれて可愛がられてきたようだ。

 1954年には凄いエピソードも起きている。死刑宣告を受けた殺人犯が、牢獄を逃げ出して金時山に登った。その殺人犯は「金時娘を殺してもっと有名になろう」という意図を持ってらしい。

 夜中にやって来たその男は、彼女の喉元にナイフを突き付けた。柔道が得意だった彼女は怪我を負いながら、必死に抵抗してその男を気絶させ、どうにか山を下りて村人に助けを求めたという。

 この勇敢な出来事が「金太郎の再来に違いない」と噂され、彼女の名を更に有名にして、さらに人々に愛されるようになった。こんな武勇伝を持つ金時娘に、どうせならお目にかかりたかった。

 私は雨が降る前に自宅に戻ったが、夕方からは台風の影響で関東も雨風が激しくなった。翌日ニュースを見ると、その晩に箱根登山鉄道が落石に乗り上げ、脱線する事故があったようだ。
 1日ずれて山に登っていたら殺人犯とは違うが、頂上でとんでもない天気と遭遇していたことだろう。




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