ワイルドライフ (コヴァーラム) 2003年3月4日〜8日


 インドで一番美しいビーチと言われるコヴァーラム・ビーチ。こじんまりして、のどかな落ち着ける所である。
 アンティーク調の街灯があるビーチ沿いの路地には、オープンテラスのレストランや土産屋が並ぶ。レストランで魚介類を食べながらビールを飲み、波音を聞きながら目の前に広がるインド洋を眺めるのも至福の一時だろう。

 レストランや土産屋の裏側には狭い路地が迷路のように広がっていて、歩き回るだけでも面白い。奥に入って行けば行く程に観光色は失せて、地元色が濃くなっていく。小さなガートなどもあり、そこで水浴びや洗濯をする人々の姿も見られる。

 路地の角では獲れたての魚を売っている風景なども目にした。ビーチでは猟師たちが地引網を引く姿や、商人たちが土産物を抱えてうろつく姿も見かけられる。路地散策をしたりビーチでのんびりしたりと二倍楽しめる土地である。

 ビーチの木陰で本を読みながらくつろいでいた時のことだった。後ろにいたサンダル売りの兄ちゃんが、枝を集めてきて魚を焼き始めた。
 魚を焼くのに道具などは一切使っていない。そのまま焚き火の中に入れて焼くだけの極めて原始的なやり方。ずっと見ていると、焼きたての魚を分けてくれた。

 この兄ちゃんの話では、地引網よりも簡単に魚が捕れる方法があるとのことだった。その方法は、ボートで沖に行って小さな爆弾を海に投げ入れ、爆発させて魚を殺すやり方。爆発させた後にそこへ網を投げ入れれば、ものの2分で大量の魚が捕れるという。
 簡単だが爆弾を投げそこなうと、手や下半身を失うリスクがある。それでも楽に魚が捕れて金になるので、今でもその方法は行われてるようだ。

 漁師が浜で網を引き始めたので見に行くと、網には1匹30〜40センチの魚が大量にかかっていた。周りには大きな籠を持った買い手が大勢いて、捕れた魚はその場で現金売買してる。取引でこぼれ落ちる小さめの魚を盗み狙う犬や人間もいた。
 捕れたての魚を食べてみたくなったので、漁師から買った魚を抱えたおばちゃんに10ルピー出して売ってくれとジェスチャーすると、10匹ほどの魚を分けてくれた。

 その魚を持ってサンダル売りの兄ちゃんの元へ戻り、さっきやっていた魚の焼き方のコツを教えてくれと頼んだ。しかし、兄ちゃんは教えてくれず、ここじゃ煙が上がって周りの人に迷惑だから、向こうの灯台の方でやれと枝を渡してきた。

 さっき自分はここでやっていたじゃないかと文句を言いたかったが、気を逆立てる事を言うと、簡単な漁に使う爆弾を投げられるかもしれない。仕方ないので渡された枝を持ち、人気の無い灯台の方へ向かった。

 そこで見よう見真似のやり方で魚を焼いて食べたが、焼き加減はイマイチで味もしなかった。ただ原始人的なワイルドさがあり、エキサイティングな経験ではあった。
 2,3匹はそうして食べたが、さすがにこの方法では全部は食べきれないので、残りはレストランに持っていってフライにしてもらった。

 フライになった魚はもちろん美味かったが、焚き火で焼いた魚の方が忘れられない味だった。だが考えてみると、地元の人はあんな風に焚き火で魚を焼くのだろうか。もしかするとこんな事するのは、私とサンダル売りの兄ちゃんだけだったのかもしれない。




Copyright (C) 2019 諸行無常 All Rights Reserved